第3話 あの日の空。

 私には夢があった。


 キラキラと目を輝かせ夢を語る彼女と一緒にキラキラしたい。


 私の知らなかった世界を見せてくれた彼女の側にいたい。


 彼女の隣を歩きたい。


 その夢がついに叶った。


 ……叶ったはずなのに。


 ◇


 私には幼なじみがいた。名前は篠塚 有紗。


 名字が一緒で、歌うのが好きで、童話が好きで。


 そんな彼女の人懐っこい笑顔が好きで、夢を語る時のキラキラ輝く瞳が好きで、繋いだ手がいつも暖かくて。


 一緒の高校に受かった時、二人して喜んだ。


 叔父さんの伝で有紗の夢だった歌手のオーディションを二人で受けた。


 二人とも受かった時には飛び上がって喜んだ。


 二人でユニットを組んだ。


 名前は〔アリステリア〕


 二人して好きだった不思議の国のアリスから名前をとった。


 活動は順風満帆とは行かなかったけど、少しずつ知名度が上がっていった。


 ワンマンライブでも多くのファンが来てくれるようになった。


 ある日、叔父さんがテレビの歌番組のオファーを取り付けたと鼻高々に教えてくれた。


「ふふふ、朱里。私達の野望にまた一歩駆け上がったったわね」


「そうだね有紗ちゃん」


「さあ、行くわよ!目指すは武道館ライブ!」


「うん!有紗ちゃん!頑張ろうね!」


 そんな全てが何もかも上手く回ってテレビ出演もいっぱい決まって、何千規模のライブも出来るようになって、自宅通いが難しくなったので有紗ちゃんと二人で事務所のビルの一番上で二人暮らしになった。


 嬉しくて嬉しくて夢みたいに何時もふわふわしていた。


 何時もこのビルの部屋みたいに天辺取れるといいね。なんて笑い合ってた。


「有紗!朱里!武道館ライブ決まりそうだぞ!」


 社長のこの一言でテンションはマックス状態だった。


「ふふふふ!来たよ!遂に!来たー!朱里!」


「うん!有紗ちゃん!」


「もうこうなったら目指すしかないわね!朱里!」


「うん!有紗ちゃん!」


「朱里!てっぺん目指すわよ!」


「うん!有紗ちゃん!有紗ちゃんと一緒なら何処までだって行くよ!」


 夢のようだった。あの日目指した天辺の星。目指すべき未来。何処までも彼女となら行けると思っていた。あの雪の日が来るまでは……。


「くうー。あと1週間かぁー。楽しみでしょうがないよ!」


「うん!頑張ろうね!」


「ふふ!緊張してトイレから出れなくなったりして」


「もう、そんな事ばっかり。大丈夫だよ。有紗と一緒なら何処でだって」


「うん。宜しく朱里」


 雪降る夜に二人頭を寄せ合い気持ちを溶け合わせる。


 ブオーキュルキュルキュルキュル


「朱里!」


 突然、有紗ちゃんに突き飛ばされ一瞬何が起きたか分からなかった。


 目の前に電柱にぶつかっている車。


 足元に倒れている有紗ちゃん。


 慌てて有紗ちゃんを抱き起こす。


 手に濡れた温かい感触。


 白い雪が赤く染まって行く。


「有紗ちゃん!有紗ちゃん!しっかりして!誰か!誰かー!」


「う、ごほっ」


「有紗ちゃん!しっかりして!ねえ、来週ライブなんだよ。有紗ちゃんがずっと待ち望んでた武道館ライブだよ。二人で一緒って、ねえ有紗ちゃん」


「あ……り……よか……」


「有紗ちゃん!しっかりして!もうなんで?なんでなの!血が止まらないよぉ。有紗ちゃん」


「……ごめ……」


「有紗ちゃん!しっかりして!誰か!誰か!早く救急車!」


「……」


「有紗ちゃん!有紗ちゃん!お願いだから、お願いだから私を置いてかないで。有紗ちゃん」


 温もりが、両手から零れ落ちていく。


 遠くに聞こえるサイレンの音。


 現実感の無い静寂。


 はは、こんなの夢だよね。


 あり得ないよね。


 嘘……だよね。


 誰か嘘だって言ってよ!

 



 その夜、星が降り落ちた。





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