第2話 導べの星

 その日私は星が降るのを見た。


 それが夢だったのか。現実だったのか。


 今でも良くわからない。


 私はその日、息の仕方を忘れた。


 体は熱いのに失われていく体温。


 叫び続けて喉が痛かった。


 ……気が付くと私の頬は涙で濡れていた。


 ◇



 土日は私の仕事の日。一応学生なので、基本的に土日だけ。


 後は長期休暇の時。


 職場はエレベーターを降りるとすぐ。所謂、「玄関開けたら2分で職場」みたいな。


 と言うのも、私の自宅が職場のビルの最上階だからだ。


〔カルテットプロダクション〕通称かるぷろ。


 それが私の所属している会社。


 私の仕事は、基本、歌詞作ったり、作曲したり、歌ったり、踊ったりだ。


「おはようございます」


「おはよう、朱里ちゃん」


「おはよう篠塚」


「おはようございます。篠塚さん」


「おはーあっかりちゃーん。元気元気してたー」


「はあ、まあ、いつも通りです。あ、そうだ、上尾さん。これ」


「お、新曲?」


「まあ、そうです」


「おけおっーけー!むらちーに渡しとくね~」


「よろしくです」


「あ、篠塚さん。この後ボイトレだっけ?」


「その予定です」


「13時から雑誌の撮影とインタビュー入ってるからその前にメイクさんとこ行ってきてね」


「あ、はい。わかりました」


 私はSDにコピーした新曲を精査して貰うために上尾さんに渡し、そのままボイトレに向かう。


 ◇


 同ビル内


「あ、おはようございます先輩」


「おはようございます!アリス先輩!」


「お……はようございます。宮守さん。咲田さん」


「もう、アリス先輩、私の事は美紀、て呼んでくださいって言ってるのに~」


「ふふ。私の事も佳奈でいいですよ。先輩!」


「あはは……私も朱里でいいけど」


「えー!アリス先輩はアリス先輩ですよ!ねー」


「そうですね。篠塚アリス先輩!」


「そうだ、アリス先輩この後の予定は?」


「え、ぼ、ボイトレだけど」


「あーそうなんですね。良かったらお昼一緒にどうですか?」


「あ!ナイスです。美紀ちゃん!」


「あーごめん。13時から雑誌の撮影あるから、多分移動中に弁当……かな」


「えー。そんなー」


「残念無念」


「ごめんね」


「むー。じゃあ今度埋め合わせしてくださいね。」


「え」


「そうですよ。今度は付き合ってくださいね」


「えと、はい」


「やた!」


「絶対の絶対ですからねー。でわでわ、行ってらっしゃいませ!」


「えと、はい、行ってきます」


 はあ、ボイトレ行くまで長かったな。


 ◇


 ボイトレが終わりメイクさんの松田さんに〔篠塚アリス〕にして貰った後、プロデューサーの石塚さんと一緒に雑誌の撮影とインタビュー。


 その後テレビ局で歌番組のリハと本番撮影。


 終わったかと思えば、ラジオのゲスト出演。


 の後に……の後に……何このブラック企業。


 おかしい。


 私昨日ボイトレしか聞いてなかったんだけど。


 でもきっと気遣いで忙しくさせて変に思い出さない様にしてくれているのだろうとポジティブに考えてみる。


 もうあれから2年以上経つのに皆、気を遣いすぎだよ。


 そんな気遣いを嬉しく思うと同時に寂しくもなる。


 今でも、仲の良い後輩二人を見ると、ふとあの頃の私達を思い出してしまう。





 ……有紗。



 私の導の星。今日も貴女の夢


 ちゃんと繋いでいるよ。











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