遺跡
「台地ってわかる?」
「平地からでっぱっている?」
「やっぱそんなイメージよね。エアーズロックとか。」
「そうそうそんな感じ。」
「違うよ?」
「えっ。」
「手のひらを広げて」
広げた。
「床につけてみて」
しゃがんで床につける。
「つけたよ。」
「その手が台地。指のところみたいに、谷になったところ、尾根になったところ、崖のようになったところがあったりする」
「ほへー。」
そんなやりとりをしたのはいつだろう。
城下に水を引こうと、そんな台地の中で高いところを探して上水を通したと、郷土史の資料に載っていた。
従って、上水は分水嶺ということになる。
換言すれば、台地の両脇を二つの大きな河が流れていて、台地を流れる川はどちらかに流れていく。その境界付近を上水が流れている。
台地を流れる川は、たいてい台地の切れ込みに湧く湧き水を水源に、他の川、他の湧水の水を集めながら降っていく。
お池もそうした水源のひとつだ。
そうした湧水の水がどこから来るか、わからないけれど、きっと、もっと台地を登った丘陵地や、さらに向こうの山地に降った水が湧き出ているのだろう。
そんな湧水・水源地を地図で見ると興味深い。だいたい同じ標高の切れ込みに、複数の湧水があるのだ。
高いところにも低いところにも、同じ高さの切れ込みに湧水がある。きっと水をたたえた地層がミルフィーユのように重なっているのだ。
ここもそんなところのひとつだったのだろうか。上水から谷と尾根をいくつかこえた住宅街に少しの崖があり、上に古代の遺跡があった。
縄文海進のあったころの縄文時代の遺跡か、はたまた弥生時代の高地の集落か、いまではコンクリートと芝で平たいらな公園になっていた。
木が少なく、芝がある、崖の上。
空を見るにはぴったりだ。私はここを見つけて、寝転がってしばし空を見つめていた。
そして唐突に思いついた。
「ここは星が綺麗に見えるのではないだろうか」
実行した。
まず寝袋を出してきた。地面の硬さや冷たさをやわらげるマットも出して、携帯の充電をしながら夜を待つ。調べると今日はなんとかという流星群がみられるそうだ、運がいい。
深夜にこっそり家を出て歩いていく。幸い人の気配もない。虫の気配もあまりない。心地よい。実によい。
今は公園となった遺跡に着いて、手早く整え、よっこらせ、と寝袋に入る。
見ると、冬の星空が広がっている。明るい流れ星や、火球でも見えたら、さぞ迫力あるだろう。
あまり見たことのない星がある。携帯の星空アプリを確認する。
「あれがアルデバラン。あっちはふたご座。」
ほーぅ、とため息をつきながら、見比べる。街明かりで見えないかと思ったら、静かにじっと見ていれば意外と見えるものだ。
だがいつまでたっても流れ星は見えない。
賢治が「銀河鉄道の夜」を書いたのは、どうしてだったのだろう。この空に見えなくても、賢治や、太古の人々が見たものがきっと隠れているのだ。賢治は賢治の、太古の人は太古の人の、私は私の言葉で見る。
結局、アプリの中で降る流れ星のみで小一時間が過ぎた。朝までいたらまずかろう。お茶を飲み干し、帰ることにした。
帰り道、巡回のパトカーが角を通っていった気がした。
上水の木々を通る風 呼続こよみ @YBTGKYM
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