第10話

 なぎの描いたアマビエの絵を見たなみは頑張って、頑張って、子を生み、後産も成し遂げました。

 なぎとなみの母は気合いで不調を乗り越え、娘と孫の世話をしました。

 しばらくするとなみの隔離された小屋からは、元気な赤ん坊の鳴き声と、笑い合う母娘の声が聞こえるようになったのです。二人は赤ん坊と一緒に小屋の戸口に姿を見せるようになり、なぎは離れてですが顔を見て話せるようになりました。

 病に苦しむようになっていた村人は、二人が元気になり、なみが無事に子を生んだことに喜びました。それは病は治るのだという希望だったのですから。

 なぎは村人にもアマビエの絵を見せました。

 アマビエの絵をみた村人たちも、頑張って、そしてかなりの者が病を克服するという幸運を掴みました。

 アマビエの絵は写されて、広がってゆきます。

 その絵を見た人をもう少し頑張る事ができるように支え、その頑張りの分の幸運を掴むことができるように。

 一人一人の頑張りは、幸運は、ほんのわずかだとしても、それを集めて、積み重ねて、前へ進んでゆけるように。

 アマビエの願いは薄く、それでも確かに世界へと広がって行きました。




 人魚たちはどうなったのでしょう。

 なぎは二度と岩場で人魚を見ませんでした。

 アマビエも、それ以外の人魚も。

 ただ、なぎが岩場に置いておいたアマビエの絵は、いつの間にか消えていました。

 人魚はアマビエの絵を見たでしょうか。

 アマビエの願いは人魚に届いたのでしょうか。

 もしかしたら人魚たちは頑張って、住みよい場所を探す事にしたのかもしれません。

 そうならきっとアマビエの願いが、幸運として彼らの事を助けるでしょう。


 もう少し頑張る事ができますように。

 そしてその分、良いことがありますように



 

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アマビエ絵本 真夜中 緒 @mayonaka-hajime

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