第49話 来訪者
内海はスマートフォンを耳から離すと、ほっと安堵のため息をついた。良かった。これで事件が解決するかも知れない。もし推理が外れていたとしても、あおいを狙っているわけではないと安心することができる。
顔を上に向け目を瞑ると、ゆっくりと吐息をもらした。ポケットにスマートフォンをしまい、顔を前に向けると歩き出した。心の中で武藤と古手川にエールを送った。
昼休みが終わり、五限目が始まった。内海はあおいのクラスで授業を行っていた。教科書を読みながら周囲を覗いてみると、みな静かだった。顔を下に向け、教科書を見ていたが頭の中は別のことを考えている。
教科書を読み終えると、一人の生徒が手を挙げ発言した。
「あの、先生」
「なに?」
「犯人はいつ捕まるんですか」
その発言で、他のものもピクリと反応し顔を上げた。みな気になっているのだ。
「それはまだわからない。警察としても、もう一人犯人がいたのは誤算だったろうから」
「そうですか……」
「けれど、警察は情報を得て今動き出している。なにかしらの成果は得られるかも知れない。犯人逮捕も有り得る」
「ほ、本当ですか……!」
するとずっと暗かった生徒たちの表情が、日が差し込んだように一気に明るくなった。あおいもかすかに笑みを見せている。内海も釣られて口角を上げた。
「本当だ。ただどんな結果になるかはわからないけどね」
「内海先生が自信を持って言うなら安心できますよ」
「そう言ってもらえてありがたいな。さあ、授業の続きだ」
発言した生徒は明るい声で返事をした。
そのあと皆の表情から曇り空は消え、普段通りの様子で授業を受けることができていた。ずっと落ち込んでいるよりも、こうして気分を入れ替えてもらったほうがいい。
授業が終わったあと、事件のことで生徒たちから質問責めにあった。少しでも不安を解消したいのであろう、内海はしっかりと受け答えした。解放されたのは、次の授業が始まる鐘の音が鳴り教師が入ってきてからだった。内海は教師に頭を下げ謝ると、教室から出て行った。廊下を歩きながら、タバコを吸いたいなと思った。気分が悪くとも良くとも、やはり煙はかかせないらしい。
窓の外を見ると、誰かが校門をくぐり敷地内に入ってきた。遠いが、帽子を被り割腹の良い男性だということはわかった。保護者だろうか?
あの男が少し気になっていたが、タバコの誘惑に負け早足で喫煙室に向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます