第43話 閃き

 古手川は夢を見ていた。事件の捜査をしている。田宮舞花から始まった今までの捜査を追想していた。もがいても、もがいても成果は得られず、被害者は増えていく。世間の目も厳しくなっていく。苛立ちが溜まっていった。

 なんとしても犯人を上げなければならない。その時、シルバーのフィットというヒントを得た。大きく捜査が進み出すはずだ。そして、ようやく被害者の共通点を得たのだ。ルージュという美容室に通っていた。


 しかし被害者を担当していた三岳は、犯人ではないという結論に近づいていった。


 くそう! また立ち止まることになってしまうのか? やっと動き出すと思ったのに! 古手川は怒りに震えた。

 他に手がかりはないのか? 見落としているだけで、すでに目の前にまで犯人に迫っているのではないのか?


 そのとき、誰かが頭に過ぎった。長身の女性だ。髪は長く、目は涼しげでクールな印象がある。


 誰だったろう? どこかで会っているはずなのだ。

 ──双葉さんはどうなんですか?

 と、昨日の三岳が言った言葉を思い出した。

 ──双葉さん?

 と、武藤は訊ねた。

 ──ほら、ぼくの他に女の人がいたじゃないですか。

 ──それで、双葉さんはいいんですか? 双葉さんも二人を担当してましたけど。

 ああ、双葉──!

 古手川は勢い良く上半身を起こした。目も口も見開き、興奮していた。


 そうだ、もう一人カットを担当していたではないか。三岳に気を取られ、忘れてしまっていた。

 考えていることが正しければ、“双葉が犯人だ”。ふと頭に過ぎったのだ。武藤が言っていたように、はやめに就寝し頭の疲れを取ったのが正しかった。

 “レイプは男がするものだという認識がある”。だが絶対に男が犯人とはいえないのだ。女による犯行もある。少ないが、事実として女による犯行も何件か確認されている。女が男に。女が女に。誰もがレイプ犯は男だと思い浮かべるものだ。古手川も信じて疑ってなかった。多様性の現代においては、きっとその認識は間違いなのである。常識ではない。

 双葉は、同性愛者なのだろう。同性愛者こそも、現代では昔よりも理解が広がり、身近なもの存在になっている。やはり時代に合わせ、認識を変えなければならないのだ。


 少女を襲い、ことを成す方法は幾らでもあるだろう。だが決定的に違うものがある。それは男性器の有無だ。股座を切断したのも、これで説明することができる。“挿入していないことがばれてしまうからだ”。

 男によるレイプの場合、膣分泌液も出づらいため、“膣内が傷つく”。しかしこの場合、挿入していないため膣内が傷つくことはない。司法解剖で傷ついていないことが発覚すれば、男性ではないという考えが出てくるかも知れない。しかも精液もついていないのだ。だから切断したのだ。切断しても、警察は犯人がレイプであることを隠すため、または精液を隠すためと考えると踏んだ。双葉としては、男による犯行だと勘違いしているほうが都合がいい。事実、警察はその考えでいた。より女による犯行だという発想から遠くなってしまっていた。

 繊細な作業をする美容師なのに、双葉の両手は怪我をし包帯を巻いていた。それは被害者に“暴力を働いたときに傷ついたものだろう”。被害者は酷い暴力を受けていた。

 被害者も女同士のため安心したはずだ。疑わず車にも乗り込む。まさかレイプされるとは思うまい。


 推理をまとめて、あらためて双葉が犯人だと思えた。

 これで車がシルバーのフィットでナンバーも合っていれば、決定的だ。証言の一致がなければ、この考えを話したところで、馬鹿なことを言うなと主任に一括されていたかも知れない。署に向かう前にルージュに行き、車の確認をしてみよう。武藤に連絡を入れ、遅れることを伝えておかなければ。古手川はスマートフォンを取り出し、武藤に電話をかけた。

 三岳のムーブを探しているときに、確認しておくべきだった。失敗だった。三岳の車に集中するあまり、フィットのことなどまったく気にかけていなかった。

 武藤に連絡を入れたあと、顔を洗い寝癖をなおし、トースターで食パンを焼きイチゴジャムを塗り食べた。時刻を確認し、コップに入れた水道水を飲み干すと、外に出た。

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