第42話 流れる街の光
古手川たちが署に帰ってきた頃には夜の七時が過ぎていた。三岳の聞き込み以降の捜査では、あまり良いものを得られなかった。
武藤に三岳から電話があったのは、署に戻ってきて五分も経たないうちだった。
通話が終わると、武藤はため息ついた。「三岳のやつは違うかも知れないな……」
古手川は不思議そうに目を細めた。「どうしてです?」
「事件があった日の夜は“風俗”に行っていたらしい」
「ふうぞくですか……」
「ああ。恥ずかしくて言い出せなかったんだとよ。でも本当のことを言わなくちゃならないと後から思い、で今の電話だ。店の名前も聞いてある。裏を取ってみるが、わざわざ嘘の電話をするとも思えないしな」
「そうですよね。これで嘘だったら、とんだ野郎ですよ」
武藤は頷いた。「俺が裏を取っておくから、お前はもう帰んな」
「いえ、ですが!」
「朝言ったこと忘れたのか? ゆっくり休めって。今日ははやく帰れ」
「でも……」
「こんなこと言ってくれる上司なんてそうそういないぞ? ネットの記事でもよくみる理想の上司ってやつだ」と武藤は歯を見せ笑った。「ぜひ主任にアピールしてもらいたいくらいだよ」
「ご自分で言わなければ、理想の上司だったんですけどねぇ……」
「はははっ、違いないな。まあ、とりあえず今日ははやく休め」
「わかりました。ありがとうございます」と古手川は頭を下げた。「それではあとはよろしくお願いします」
「ああ、ちゃんと裏を取っておくから」
「裏取りだっていって風俗に通わないでくださいよ。結婚してるのに」
「ふふっ、馬鹿言うな。元マル暴の刑事だぜ? バレたら殺されちまうよ、おっかねえんだからな」
古手川も声に出し笑った。
あらためて礼を言い古手川は署を出ていった。コンビニで弁当と糖分を取るためデザートを買い、帰路についた。夜の街を歩き、人々が過ぎ去っていく。店の明かりが輝き、行き交う車のベッドライトがぴかぴかと光っている。今も犯人は、この街で素知らぬ顔をして過ごしているのかと思うと、怒りが湧いてきた。あともうすぐで、犯人に届きそうなのだ。なにかが胸の中につっかえている。
古手川は吐息をつき、歩幅を広げ進んで行った。
事件のことを忘れることはできないだろうが、はやめに寝床に入ろうと思った。
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