第41話 行方知れず
授業が終わり、内海は足速に喫煙室に向かっていた。イライラすることがあり、どうしても吸いたかった。
曲がり角からあおいが現れ、内海は足を止めた。あおいは眉を悲しそうに下げ、内海を見つめた。
「凛姉ちゃん、三人目の被害者が出たんだってね……」
「そうらしいな」と内海は答えた。
このニュースが、タバコを吸いたくなる原因だった。授業の前に三人目の被害者が出たことを知り、そのことが頭の中をぐるぐると駆け巡り、内海は授業に集中することができなかった。苛立ちを生徒も察知しており、居心地悪そうにしていた。
「いつ犯人は捕まるんだろうね……莉奈が浮かばれない……」
「……そうだな」と内海は拳を握り言った。胸が締め付けられた。「そろそろ捕まえてもらわないと」
すると、一人の生徒がこちらに駆けてきた。
「先生!」と生徒は言った。鬼気迫る表情をし、只事ではない様子だった。
「どうしたんだ?」
「美希(みき)ちゃんのお母さんから電話があって、まだ塾に行ったきり家に帰ってきてないみたいなんです! じ、事件に巻き込まれたんでしょうか……!」
内海は体を震わせた。息が詰まりそうだった。動揺を見せてしまいそうだった。まさか犯人に──?
だが平静を装わなせればならない。これ以上、不安にさせるわけにはいかなかった。
「落ち着くんだ。まだなにも決まったわけじゃないでしょ?」
「け、けど三人目の被害者が出たっていってたし、美希ちゃんも……」
「ご両親も警察に相談しに行ったはずだ。捜索してくれているさ。案外ひょっこり帰ってくるかも知れないよ」
「そうですかね……」
「そうさ。安心して待っておけばいい」
「はい……」
生徒はとぼとぼと歩き出した。今にも泣きだしそうな背中をしていた。友達のためになにもできない自分と、元刑事の教師から、安心させてくれるような言葉がなかったことに、不安と落胆を覚えていた。
教師にできることなど、安い言葉をかけることくらいしかできないのかも知れない。
「凛姉ちゃん、顔色悪いけど大丈夫?」
「ん、ああ……、平気だ」と内海は笑みを作り言った。「次の授業が始まるぞ、もう戻ったほうがいい」
「うん、わかった」
あおいは去るその瞬間まで、内海を心配する様子を見せていた。あおいにまで心配され、頼りのない教師だ。保護者会で母親連中に糾弾されてもおかしくない。内海は喫煙室に向かって歩き出した。母親たちの香水の匂いに対抗して、タバコの臭いを身にまとおう。
あの生徒が言っていたように、まだ家に帰ってきていない美希という生徒が心配だ。警察がどこまで動いてくれるか。友達の家で夜通し遊んでいたという結末を、願うばかりだった。
内海は、悪い予感がしざわついている胸に手を当て、落ち着こうとした。ただの教師は、自分にも安い言葉をかけることしかできない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます