第27話 手記
『テレビの中で女性キャスターが原稿を読み上げている。最近あった幼い少女が拐われた事件だ。犯人の男は捕まった。だが少女は殺され、遺体を切断され捨てられていた。少女に劣情を抱き拐ったが、処理に困り殺した、と犯人は証言している。
他人事とは思えない事件だった。別種の事件ならば、ああ怖いな……、と思うだけだが、少女に自分のことを重ねてしまい辛かった。
私はこの先どうなってしまうのだろう。先生がこのまま私の前からいなくなってくれたら、私もあんなことは忘れてしまい、普通に毎日を過ごしていくのに。
立ち上がると、鏡に映る私を見た。酷い顔をしている。死人よりも酷い顔。これは一人でいるときの顔だった。そして、多田野と向き合っているときの顔。友達や家族には見せられない。
誰か助けてほしい。そんな思いもある。でも相談なんてできない。どうすればいいんだろう。学校も休めない。親にばれてしまう。
私はもう一度椅子に座ると、ため息をついた。ため息をつけば幸せが逃げていくらしいが、はたして私の体内に幸せは残っているのだろうか。
すべては多田野のせいだ。あいつが私に酷いことをしなければ……。
すべてが始まったのは、二年になったすぐの頃。用事を頼まれ、教室で多田野と二人きりになったことがあった。作業は思った以上に進まず、陽も落ちてきて窓の外は暗くなっていた。他の生徒の気配もなかった。
すると突然、多田野が私に襲いかかった。なにが起きているか理解できていなかった。え? え? と頭の中で反響するだけで、真っ白になっていた。正直、今でもあのときのことを正確に覚えていない。でも多田野の荒い息遣いと、ずっとお前を狙っていたんだと言った言葉だけは、忘れることなく頭の中に残り続けていた。
私は抵抗したと思う。でも大の男にはかなわかった。頬に強い痛みが走った。殴られたのだ。女は武器がなければ、男に抵抗もままならない。
服を脱がせた私を、多田野はどこからか取り出してきたカメラで撮影した。これで俺には逆らえない、そう多田野は言った。
その先のことはよく思い出せない。気がつけば家に帰っており、体調が悪いから夕御飯はいらないと告げ、自室に向かった。ベットへ倒れ込むと、色んな思いが頭の中で駆け巡った。チクタクと、時計のハリが聞こえる。吐息も鼓動の音すらも聞こえず、まるで死んでしまったかのようだった。私は声も出せず、涙だけを落とし泣いた。
それから辛い日々が始まった。
感情が爆発してしまいそうだ。今すぐにでも発狂してしまい、暴れてしまいそうだ。むしろそうしたほうが楽になれるのかも知れない。でもそうすると、もう私には戻れない気がした。そんな解決を私は望んでいなかった。
だからお願いです。もう、やめてください。先生、お願いですから。許してください。私をほうっておいてください……。
こんなとこに書いても、無意味だってことはわかってる。わかってる、わかってる。でもどうすればいいの? 誰か助けて。お願いだから。もういや。だれか。だれかだれkkkkkkkkkkkkkkkk
机に伏せっていると少し落ち着いた。kを訂正すのも面倒だ。この文章は学校に行く前に書いている。最近は朝早くに目覚めてしまう。でももう家を出なければならない時間だ。またあいつに』
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