第25話 目がくらむ通話
昼食を取り、署に戻ってきた。
箸の進みの悪い内海を気遣ってか、武藤は仕切りに話しかけ良い雰囲気を出し、美味そうに食べお代わりもしていた。お代わりは武藤の腹が足りなかっただけかも知れないが。
廊下を歩いていると、スマートフォンに着信があった。武藤に先に行ってくれと言い、内海は邪魔にならないよう端により、取り出した。着信は父の妹である香織からだった。食事の誘いだろうか? 真っ先にそう思い浮かんだ。でもなぜか、嫌な予感もしていた。
「もしもし」耳にスマートフォンを当て応える。「どうしたの」
「凛ちゃん、凛ちゃん、そ、それが……」香織は非常に慌てた様子で、掠れた声で言った。「あ、あおいが、連れ去られたみたいなの――」
「えっ……」
耳を疑うとはこのことだった。香織の言葉を飲み込むことができなかった。
「学校から連絡があったの……朝から学校に来てなくて、一人の教師も同時に姿を消しているみたい……」
「で、でも、それじゃあ連れ去られたかはわからないでしょ」
「ううん、朝早くに二人が歩いているとこを見たっていう目撃もあるの……それにその教師のアパートから、あおいの写真が大量に出てきたらしいのよ……」
「あ、あおいの……」
内海は衝撃で鈍くなった頭を一生懸命回転させ、情報を処理し考えた。あおいが連れ去られた。もちろん、嘘なんかではない。動転してるが、香織の声を聞いているとそれはわかる。嘘をつく意味もわからない。次に出てくるのは、なぜ連れ去られたのかということだった。そうだ、警察に通報はしたのだろうか? 知り合いの刑事に電話しただけで、まだかも知れない。
「通報はしたの」
「ええ、もう警察に連絡はいってる。お願い、あおいを助けて……お願いよぉ……」
「え、ええ」
気がつくと電話が切れていた。耳元からスマートフォンを離すと、内海は壁にぐったりと力を預けた。香織から色々聞くべきであったが、そこまでの余裕はなかった。
目が回る思いだった。
──あおいが連れ去られた。
思考が回らず、心臓は早鐘を打っている。
──教師があおいを。
嗚咽がする。酸素が足りない。
──目的はいったい。
武藤が小走りでこちらにやってきた。壁に寄りかかっている内海を見て驚いていた。
「いったいどうしたんだ、青い顔をして」
「いや……」内海は言葉を探ったが、適切なものが出てこなかった。どう説明をすればいいかわからなかった。
「まあいい、それよりも事件だぞ。学校の教師が生徒を誘拐したみたいなんだ」
「……なんです」
「んっ、なんだって?」
内海は顔を上げた。「私のいとこなんです、その子……」
武藤は目を見開き、言葉を詰まらせていた。一瞬、逡巡する表情を見せたが、すぐに刑事の顔つきになり、
「やれるか?」と言った。
内海の頭の中には、あおいの顔や思い出が駆け巡っていた。小さな頃から、現在の大きくなった姿まで――。答えは一つしかなかった。
「はい」内海は壁から体を離すと、拳をきつく握った。「やれます」
「よし、マスコミに嗅ぎつられる前に片付けるぞ」
「はい」
内海と武藤は歩き出した。
こんなところで、じっとなんてしていられない。
従姉としても刑事としても、勤めを果たす。あおいは殺されたわけではない。救いはあるのだ。父に続きあおいまで無くすわけにはいかない。
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