三章 半年前の事件

第24話 半年前のある日

 内海の父親が亡くなってから一月が経つ。父が死に、金が代わりに生まれた。不思議な感覚だった。


 思えば、この一月はやいものだった。日々の忙しさの影響もあるのだろう。しかし、胸にはポッカリと穴が開いていた。忙しい日々の中で、どこか漠然としたものが流れていた。自分を俯瞰で見ているかのような、そんな心地。心が疲弊しているのがわかった。慰めを欲しているのもわかった。

 そのくせに、父の妹夫妻に食事に誘われても断っていた。そんな気分になれないということもある。心機一転といきたいが、酒と同じで良い心地になることもあれば、吐き気を催すこともある。家庭の暖かさに触れるのが怖いという気持ちもある。あおいとも久しく会っていない。

 葬式のとき、あおいの表情は暗く心が落ち込んでいた。父の死にというよりも、他のことで元々“何か“あったのかも知れない。人と接するときはそれが消えるのだが、誰も見ていないところでは暗い影が顔を出す。考え過ぎなのかも知れない。だが心配だった。


 書類作業が一段落つき、ぐっと伸びをすると時計を見た。二時とちょっと過ぎだった。


 武藤が肩を回し声を漏らしながらやってきた。「お前も一段落ついたところか。ちょっと遅いが昼、食べに行くか」

「はい」

 内海は立ち上がると、武藤と歩き出した。

 食欲はあまりなかった。最近は酒とタバコばかりだった。だが武藤に心配をかけるわけにはいかない。父の死以降、武藤に気を使わせてばかりだった。


「やっとこさ」と武藤は言った。「この前の山も片付いたが、無くならないものかね、事件」

「人がいなくなれば無くなるんでしょうけど、一生ないでしょうね。事件が無くなること自体が事件です」

「ふっ、違いないな。だから腹を膨らまして、午後に備えよう。いつ事件が起こるかわからんしな」

「はい」

 内海らは廊下を歩いていった。

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