二章 二人目

第15話 厳格な教師

 朝礼が終わると、半分くらいの教師が授業のため教室に向かった。


 内海が椅子に座ると、縁のないメガネをかけた四十代の女教師がやってきた。自己紹介のとき、内海を訝しげに見ていた教師だ。名は林(はやし)といい、学年主任をしている。

 林によく思われていない節がある。いかめしい表情と立ち振る舞いを見ていると、どうやら小言を言われそうだった。


 内海のそばに立つと、林は言った。「内海先生、先日生徒を車に乗せ帰宅しましたよね」

「ええ」

「特定の生徒をひいきするような真似は如何なものかと。聞くところによると、あの生徒は親戚らしいですね。普段からも親しく喋っておられるようだし、それはどうなんでしょう」

「親戚だからといって、別にひいきしているつもりはありませんよ。それに、生徒と親しく喋るのは駄目なんですか? 親戚だと喋ってはいけないのですか?」

 反論されるとは思はなかったのだろう。林はいかめしい顔をむっとさせ、より眉間にしわを集めた。

「そうではありませんが、ひいきしていると捉えられてもおかしくありませんよ? 現に車に乗せて帰宅していましたし」

「普段からそうしているわけではありません。あれは中原あおいの帰りも遅く、しかも下劣な事件があったばかりです。一緒に帰れるような友達もいませんでしたから、送ろうと言ったんです。外も暗くなっていたのに、一人で帰すわけにもいかないでしょう。彼女が被害に合わないとも限りません。それを見過ごし、じゃあと手を挙げ帰るほうが如何なものかと判断したんです」


 林は反証しようと唇をかすかに動かしていたが、言葉は出てこなかった。目を泳がし、苦い顔を浮かべた。「ですが、あまり馴れ馴れしくはしないでくださいね」

「ええ、もちろんです。ひいき目では見ません」

「ならいいですけど」

 林はくるりと背を向けると、職員室を出ていった。


 今後の林との関係や、仕事のやりやすさを考えると、反論せず、大人しく話を聞き謝っておいた方が良かったのかも知れない。先日、あおいから学ばなければと思ったばかりなのに、やはり要領が悪い。

 他の教師連中は、内海の方をちらちらとうかがっていた。林とのやり取りのあと、どんな反応を取るか確認しようとしているのだ。内海は、事件現場で見た野次馬の目を思い出した。同じ目をしている。

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