331球目 器用に投げ方を変えられない

 臨港りんこう学園のエース・生野いきのの球種は主にストレート、スライダー、チェンジアップ、球速はMAX143キロ、コントロールはBランクで、俺と似たようなピッチャーだ。しかし、彼の最大の武器は、スリークォーターななめ上投げサイドスロー横手投げアンダースロー下手投げの3つを投げ分ける器用さだ。同じ球種でも軌道きどうが変わるので、実に厄介だ。



 東代とうだいはそれの対策として、ピッチャー太郎02を改良してきた。



「ヘイ! これがピッチャー太郎DXです!」



 ピッチャー太郎はゴミ捨て場のガラクタを集めた不格好なロボットだったが、DXになるとマネキンの体がついて、よりリアルになった。



「パソコン研究会と私によって、AIがインプットされています。ランダムでモーションをチェンジ出来ます!」



 ピッチャー太郎DXが最初は横から投げ、次に下、その次に上、ななめ上、横、下、下、横、上、ななめ上……、完全に投げ分けられている。これで、生野対策はバッチリだ。



「でも、僕ら、アンダースローの豊武とよたけ、サイドスローの黒炭くろずみに苦しめられたよ。明後日までに打てるようになるかなぁ」



 山科やましなさんの言う通り、俺達が打ってきたのはオーバースローやスリークォーターの投手だけだ。1日2日で攻略できるとは思えない。



「何や、豊武とよたけのボールやったら、打つの楽勝やで。こない打ったらええねん。東代とうだい君、アンダーに設定して!」



 六甲山ろっこうさん牧場の大縞おおしまさんが打席にはいると、ピッチャー太郎DXが下からボールを投げる。彼はそれをアッパースイングですくい上げて、センター方向へ運んだ。



「なるほど。アンダースローには、月曜の月に向かって打てスイングカー」


「ミス・トヨタケがリョ―トクにノックアウトされたのがアンダースタンド。リョ―トクのバッターはホームラン狙いのアッパースイングです」



 そういや、良徳りょうとく学園の選手はど真ん中をホームランにする練習していたな(https://kakuyomu.jp/works/1177354054895930927/episodes/1177354054919054754)。



「その理屈でいくと、スリークォーターには普段通りのダウンスイング、サイドスローにはレベルスイングってことやね」


「甘い甘い甘いわ! サイドスローは死球デッドボール怖がらずに踏みこんで打つんや!」



 番馬ばんばさんが大縞おおしまさんを押しのけて打席に入り、サイドスローを要求する。番馬ばんばさんは勉強面は救いようのないアホだが、意外と野球面では賢いなぁ。



黒炭くろずみ、消し炭ぃ!!」



 鬼と化した番馬ばんばさんが、外のストレートを思いっきりピッチャー返しした。打球は防護ネットを突き破り、ピッチャー太郎DXの頭部を破壊した。



「オーノー! タロー!!」


「いやぁ、すまんのう。手加減できんくて」



 結論、番馬ばんばさんは単なるパワー馬鹿だった。



(続く)

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