332球目 理事長夫人は忍者じゃない

 浜甲はまこう学園の柳生やぎゅう理事長夫人は新聞記者を装って、試合前日の臨港りんこう学園野球部を直撃した。



「もう呪いはアテにならないわ」



 5回戦の園田そのだの呪いは中途半端だったので、効果はいま一つだった。呪いの反動で、彼は下半身が魚の姿になっていた。それを思い出すだけで吐き気をもよおしてくる。



 まだ朝の9時なのに、本物の新聞記者たちが1人の選手に集まっていた。



 理事長夫人が記者を押しのけると、上半身が裸の男がにこやかに質問に答えていた。



鰐部わにべ君、次の試合で高校通算100本目のホームラン狙いますか?」


「ハハッ。100本目打てても、チームが勝たんと意味ないんで。ランナーおらんかったら狙いますけど」



 鰐部わにべの体は筋肉がムダなくついていて、見た目だけなら一流の水泳選手と遜色がない。



「筋肉がとてもステキですねー。筋トレ効果ですか?」


「ハハッ。それもあるけど、ベンチプレス100キロを何百回かやった後に、特製プロテイン飲んでるおかげかも。試合中も飲んでマッスル」



 理事長夫人はそれを聞くと、野球部の部室へ忍び足で向かう。



「うわっ、くっさー!」



 部室の男臭さに、彼女は鼻をつまむ。雑巾ぞうきんにレモンをぶちまけた悪臭だ。彼女は鰐部わにべのバッグを探す。



「あった! 特製プロテイン!」



 鰐部わにべのバッグの中には、特製プロテインのパックがぎゅうぎゅうに積まれていた。しかも、好都合なことに、摂取予定の時間まで書かれていた。



「明日の試合中は、これね!」



 7月30日の午後12時のプロテイン袋の中に、理事長夫人特製のドーピングマッスル粉末を混入する。



「これで万事OKだわ」


「フゥー。ちょっと休も、ああっ!」



 臨港りんこう学園の選手が、理事長夫人を目撃してしまった。はたして、理事長夫人の運命はいかに?



(続く)

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