333球目 マッチョ獣人になれる薬が手元にない

 柳生やぎゅう理事長夫人は慌てて鰐部わにべのバッグを閉じ、高速で言い訳をひねり出す。



「えっと、これは、ちょっと、迷っちゃって。オホホホホホ」


「嘘だ。さっき、そのバッグに何か入れたでしょう?」



 男が鰐部わにべのバッグを指差す。彼女は開き直って、全てを告白した。



「ええ、その通りよ。鰐部わにべ君が活躍するように、プロテインの中にある物を入れさせてもらったの」


鰐部わにべのプロテインに? また鰐部わにべが目立つやないかい!」



 男は左手で壁を殴り、少し顔をゆがめた。



「あ、あのぉ、あなたは?」


「俺は臨港りんこうのエース・生野いきのです。毎回ええピッチングしとるのに、あいつがバカスカ打つせいで、ちっとも目立たへん!」


「それは気の毒ねぇ……」


鰐部わにべ天塩あまじお神川かんがわ、マッチョ獣人がやたら目立つ! 俺もマッチョ獣人になりたいっ!!」



 彼は力こぶを作るが、すぐぺしゃんこになってしまう。



「ほなら、あなたのために、筋骨隆々の獣人になれる薬を、明日までに作ってあげるわ」


「ホ、ホンマですか? よっしゃあ!」



 彼はバンザイしてクリスマスプレゼントをもらったようにはしゃぐ。理事長夫人は「これで浜甲は負けるわ」と、ほくそ笑んでいた。



(続く)

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