158球目 ピッチングマシンの機能がハンパない

 金曜日、俺と東代とうだい刈摩かるまの高級車に連れられて、良徳りょうとく学園にやって来た。野球グラウンドの内野は甲子園球場のような黒土で、実にうらやましい。



刈摩かるま様のお帰りや」


刈摩かるま様、お帰りなさーい!」



 野球部員が一斉に刈摩かるまに手を振る。彼は左手を軽く振って、涼しげな笑顔を見せる。



「練習遅れてるのに怒られないって、社長かよ」


「私の父上が彼らに高級スパイクやグローブを提供して以来、あんな感じだよ。困ったもんだ」



 彼は肩をすくめるが、まんざらでもない表情だ。金持ちの息子は一挙手いっきょしゅ一投足いっとうそくが鼻につく。



「ピッチングマシンはどうなりましたか?」


「ああ、アレね。東代とうだい君のスーパーブレインのおかげで、いいピッチングマシンが出来たよ」



 刈摩かるまの指差す先に、球体関節人形のようなロボットがマウンド上に立っている。それの顔にはタブレットが貼られ、天塩あまじおの顔写真が表示されていた。



「っしゃあ、来い! ネコ塩!」



 カンガルー男が叫ぶと、ピッチングロボが本物さながらのダイナミックなフォームで投げこんでくる。ミットがグラウンド全体に響く音を立てる。



「あれがピッチングロボK。どんな投手でも100球以上のデータを打ち込めば、本物そっくりの球質、スピード、フォームを再現してくれるスグレモノだよ」


「ハァー。スッゲェー」



 開いた口がふさがらない。さらに、恐るべきことに、どの打者も天塩あまじおのボールを外野へ運んでいく。



「パワーランクSぞろいかよ」


ナップいいえ。よくルッキングして下さい。彼らは同じコースをヒッティングしています」


「同じコース?」



 目をこらせば、どの打者も真ん中付近のボールをフルスイングしている。それ以外のゾーンに来ると見送ったり、空振りしたりしている。



「ど真ん中打ってるだけか」


「ブラボ―! よく気づいたね。私の野球部は、ど真ん中の失投を確実に打てるよう、トレーニングしてるんだ」



 どんなコントロールの良い投手でも、1試合に2、3球はど真ん中へ投げてしまう。それを絶対に見逃さない重量打線を作るつもりか。



刈摩かるま様ぁー! そろそろ投げてくれー」


「わかりました。では、お2人さん、私の華麗かれいなピッチ、うっ、雨だ」



 ポツポツ雨が降ってくる。まぁ、この程度なら練習は出来る。刈摩かるまはしかめっ面でメイドを手招きする。



「傘を差してくれ」


「かしこまりました」



 刈摩かるまはメイド同伴でグラウンドに入り、大きな傘の下でボールを投げる。



 正直、奴の投げるボールより、傘を持ったメイドさんが気になってしかたない。それを許す良徳りょうとく学園野球部が、とてつもなく奇妙な集団に思えた。



(夏大予選まであと21日)

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