275球目 ヘディングはよくあるプレーじゃない

 摩耶まや高校は灰色のユニフォームも相まって、とても暗く感じる。「しまっていこー」や「ヘイ、サード」などの掛け声が全くない。陰気すぎる。



「サードが下手やね」



 津灯つとうがサードの尺村しゃくむらを指差す。彼女は番馬ばんばさんより背が高い。サードの巨人だ。



「何か見たことあるなぁ、あの人」


「ハッ! トイレの悪霊あくりょうによう似とる!」



 烏丸からすまさんの指摘で、サードの尺村しゃくむらが、急に麦わら帽の目隠れ悪霊に見えてきた。まさか、俺達の誰かを気絶させるために、トイレの中にこもっていたのか? いや、それはさすがに回りくどいか……。



千井田ちいださん、サード狙いよ。サード」


「OK、グル監。任せてくれやん」



 相手ピッチャーの大岩おおいわは、120キロ台のストレートと曲がりの悪いカーブしか投げない。ハンズキャノンや馬娘P、クソデカ龍に比べたら、とても打ちやすそうだ。



 千井田ちいださんは初球から打ちにいった。だが、打球は三塁方向のフライになってしまう。



「あっー! やってもうたぁ!」



 サードの尺村しゃくむらは両手を広げて、打球を捕ろうとする。



「いたいっ!」



 ボールが彼女の頭に当たった。彼女はファールゾーンにいたので、ファールだ。残念。



「すみません。ちょっと、ベンチ戻ります」



 あんなポップフライをヘディングとは、かなり守備が下手なようだ。



 彼女は頭に包帯を巻いて、グラウンドに戻ってきた。チームメイトがケガしたのに、誰も知らんぷりで守備位置から離れない。冷たすぎじゃないか、このチーム……。



 2球目は、千井田ちいださんが上手く流し打ち。三遊間抜けそ、あっ、尺村しゃくむらが飛びついて捕った。



 尺村しゃくむらは捕ってからすぐに上体を起こし、ファーストへ投げた。



「アウト!」



 さっきとは別人の守りだ。あのヘディングはワザとなのか?



 真池まいけさんが三振に倒れ、津灯つとうが打席に入る。津灯つとうは積極的にレフト方向へ打球を飛ばす。3球連続で鋭いゴロだったが、4球目はフライになった。



 尺村しゃくむらは打球を見ずに、落下予測点まで走る。フェンス手前で振り返り、難なくボールを捕った。



「スリーアウト、チェンジ!」



 彼女は宇宙人でも中々できない「目切り」(100球目参照https://kakuyomu.jp/works/1177354054895930927/episodes/1177354054905382489)が出来るから、きっと守備の名手に違いない。1イニングだけだまされちゃったな。



(続く)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る