274球目 幽体離脱がコントロールできない

 浜甲はまこう学園と摩耶まや高校の試合は、姫路ひめじ城前球場にて午前10時からプレイボールだ。雲が多いが、すき間からのぞく太陽光はギラギラ強く、28℃の夏日和になっていた。



 しかし、摩耶まや高校のベンチはどんよりして、梅雨のように湿り切っている。ほとんど無口で、バットをふいたり、グローブを磨いたりしている。



「ねぇ、花合はなごうさん聞いてー。昨日、私、どっかのトイレの中に閉じこめられとって。中から出してドア叩いたら、何か開いて、目が合った男が白目向いて倒れちゃってー。ホンマ失礼するわー。怒りポッポポー!」



 1人だけテンションの高い尺村しゃくむら八美はちみが、花合はなごうにマシンガンのように話し続ける。花合はなごうはおかっぱ頭をくしで整えながら、何回もうなずく。



「また幽体離脱ゆうたいりだつしたのね。気を付けないと、本物の幽霊になるわよ……」



「えっー! こわーい! 私、まだ80年ぐらい生きたいよー!」


尺村しゃくむら、静かにして。試合前のミーティング、始めますよー」



 猪名川いながわ潤一じゅんいち監督が手を叩いて、選手たちの視線を集める。



「えー、本日の浜甲はまこう学園は、3試合24点で打率3割超えてます。怖いですねー。しかも、3試合で13盗塁、機動力もあります。怖い、怖い」



 猪名川いながわは怪談話を聞かせるように、淡々と話し続ける。



「ただ、本日は幸運なことに、先日の試合で好投した宅部やかべ君とホームランを打った番馬ばんば君がスタメンにいません。これはチャンスです。キーンキーン! 皆の打球音が聞こえます。是非とも水宮みずみや君を攻略し、我が校最高のベスト16に行こうじゃありませんか?」



「はーい!」



 尺村しゃくむらが明るく手を挙げ、他は黙ってうなずいた。



浜甲はまこう学園>

1三 千井田ちいだ(2年)右投左打

2一 真 池まいけ(2年)右投左打

3遊 津 灯つとう(1年)右投左打

4投 水 宮みずみや(1年)右投左打

5中 山 科やましな(3年)右投右打

6二 火 星ひぼし(1年)右投両打

7左 烏 丸からすま(3年)右投右打

8右 取 塚とりつか(2年)左投左打

9捕 東 代とうだい(1年)右投右打



摩耶まや

1一 洗足せんぞく(3年)右投右打

2二 花合はなごう(3年)右投右打

3三 尺村しゃくむら(3年)右投両打

4左 菊田きくた(3年)右投左打

5右 置堀おきぼり(2年)右投右打

6遊 久根くね(1年)右投右打

7中 古栗こくり(3年)右投左打

8捕 人面ひとつら(3年)右投右打

9投 大岩おおいわ(2年)右投右打



(続く)

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