273球目 幽霊はめったに出てこない

 昨夜、トイレで倒れた宅部やかべさんは意識が戻らなかったので、病院へ送った。命に別状はないが、今も意識不明らしい。



 俺は妖怪退治マンの烏丸からすまさんと霊感の強い取塚とりつかさんと幽霊の夕川ゆうかわさんとで、例のトイレで現場検証していた。



「ここを3回ノックしたら、中から音がしたと?」


「はい。とても激しかったです」



 烏丸からすまさんは虫眼鏡越しに、トイレの中を隈なく見ている。



取塚とりつかさん、何か感じますか?」


「さっきから寒気がするよ。早く出よう」


「何を言うとる。悪霊が出てきたら、ガツンと殴ったるんや!」



 熱い拳を振り回す夕川ゆうかわさんと北国に来たように震える取塚とりつかさんは、正に水と油、源氏と平氏、北風と太陽だ。



「むむっ。これは女の髪」



 烏丸からすまさんが薄手袋をつけた手で、長い黒髪を拾い上げる。



「何で、これが女性の髪とわかるんですか?」


「この髪から、異様にでかい女のオーラが残っててなぁ。うーん、今から出してみよか」



 烏丸からすまさんが髪を持ったまま、怪しい言葉を唱えれば、白い煙が出てきて天井へ伸びていく。



「こっ、これは……」



 天井に頭をぶつけそうなほど高い身長の女性が現れた。麦わら帽子をかぶり、長い前髪で目が隠れている。



「間違いない。こいつが、宅部やかべさんの前に現れたんや」


「こんにゃろー! 殴ったるー!」



 夕川ゆうかわさんがパンチをふるうも、女性の体をすり抜けてしまう。



「これは、ここに残った霊気を実体化しただけやから、同じ幽体でも殴れへんで」


「クソ―。今度会ったら、半殺しにしたる」


「ねぇ。早く出ようよー」



 夜中にこんなバカでかい女性の霊を見たら、そりゃ気絶するよな。俺も目撃しなくて良かった。



「それにしても、なーんか、この女、見覚えあるなぁ」



 烏丸からすまさんが首をかしげて、巨大な女性を見上げている。こんな巨大な人に出会ったら、絶対に忘れないと思うが……。



(続く)

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