265球目 2階から目薬はやりたくない

 事実上の最終回、浜甲はまこう打線は龍水りゅうすいを攻め立てて、2死満塁にした。



 6番の烏丸からすまに代わって、本賀ほんがが打席に入った。



「みんな、しっかり守ってくれ!」



 龍水りゅうすいの指示で、ファーストとサードが龍水りゅうすいの前に、セカンドがファースト、ショートがサードを守る、バントヒット阻止のシフトになった。



「スーちゃん、頼むでぇ!」



 千井田ちいだが手の肉球同士を叩いて、本賀ほんがにエールを送る。



 普通なら、2階ぐらいの高さからくる龍水りゅうすいのボールは、女子の本賀ほんがが打つには荷が重すぎる。



 だが、彼女には勝算があった。兄との2階から目薬練習(https://kakuyomu.jp/works/1177354054895930927/episodes/1177354054900056201)を活かせるからだ。



 フライを捕る要領で打つ。しかし、いつものバットスイングでは間に合わない。バントは封じられている。バットのあの部分に当てるしかない。



 彼女の思考の中で、攻略法は見つかった。



 龍水りゅうすいは自慢のドラゴン・フォーシームを投げる。本賀ほんがは打ちにいくと見せかけて、バットのグリップ(根元の丸い部分)に当てた。



 キャッチャーの立花たちばなは「あっ」と口が裂けそうなぐらい開けて叫び、転がったボールを捕りに行く。ホームベースを踏もうとしたが――。



「セーフ!」



 千井田ちいだの足は速い。ホームアウトはあきらめて、ファーストへ投げる。本賀ほんがの足は遅いので、十分に間に合う。



「ハァハァ。あらっ」



 本賀ほんががぬかるみに足を取られて、体が左ななめにかたむく。送球が彼女のヘルメットに当たる。



「いたっ!」



 あまりの痛みで彼女は目を回し、酔っ払いのようによろめきながら、ファーストを枕にしてうつぶせに倒れた。



「バックホーム!」



 二塁ランナーの津灯つとうがホームへ走る。悪藤あくどうが「クッソー!」と叫びながらボールを拾い、キャッチャー目がけて力投した。



 浜甲はまこうの逆転か、同点止まりか?



(続く)

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