264球目 龍とドラゴンは兄弟じゃない

 バントヒットの真池まいけさんの代走・千井田ちいださんが2盗、3盗を決め、津灯つとう四球フォアボールで歩く。1死1・3塁で、俺に打順が回ってきた。



「4番セカンド水宮みずみや君!」



 今日一番の歓声が球場中を包む。



「おデブドラゴンちゃんに龍水りゅうすいさんのボールは打てっこねーよ!」



 悪藤あくどうがはやし立ててくる。俺は相撲すもう力士みたく腹をバチッと叩いて、龍水りゅうすいの方を見上げてにらんだ。



水宮みずみやるい。お前は俺が鍛え上げた打線から逃げた、卑怯ひきょうなピッチャーや。絶対にアウトにしてやる」



 龍水りゅうすいが目を直角三角形にして、にらみ返してくる。



 1球目、俺は超アッパースイングで迎えうつ。



「ストライクッ!」


 うーん、何かタイミングが合わない。ボールはオラゴン星人の第3の眼のおかげで、よく見えてるのになぁ。あっ、でも、もし当たったとしても、内野フライになるか。



 内野……。ちょっと待てよ。龍水りゅうすいがクソデカなせいで、サードがファーストへ投げにくくないか。定位置のサードの前にバントしたら、セーフになるかも。



 龍水りゅうすいが2球目を投げてくる。さっきより遅いチェンジアップだが、バントにもってこいの絶好球だ。



 三塁前にちょこんと転がし、腹を揺らして走る。龍水りゅうすいの巨体が邪魔になって投げにくいはず。投げるな、投げるな。



「セーフ!」


「おっしゃあ!」


 

 三塁ランナーの千井田ちいださんをホームにかえせなかったが、満塁に出来たぞ。



「ど、ど、ど、どこまでも卑怯ひきょう水宮みずみやぁ……!」


 

 龍水りゅうすいが太い左腕をプルプル震わせている。そんな激おこりゅうに向かって、俺はアカンべーをしてみせた。



(続く)

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