266球目 龍水は天気の子になれない

 立花たちばなは顔の前で悪藤あくどうからの送球を捕る。そして、ホームへ走ってくる津灯つとうの足をタッチしようとする。



「死ねぇ!」



 彼は殺気だった目で、ミットを前へ出す。



「うわっ!」



 急に彼の目の中に異物が入ってきた。たまたま、津灯つとうのスパイクがった泥が、彼の目に直撃したのだ。



 目つぶしを喰らった形になった立花たちばなは、津灯つとうを見失い、タッチできない。その間、津灯つとうはホームを踏んでいた。



「セーフ、セーフ!」



 得意の集中攻撃が炸裂さくれつした浜甲はまこう学園は喜びのあまり、選手たちが互いに抱き合い、握手していた。



 一方、満賀まんが高校は雨中の不運が重なり、3点を失った。



 それでも、龍水りゅうすいは気を取り直して、火星ひぼしを三振に抑えた。



「さぁ、逆転するでぇ! 試合はまだまだこれからや!」



 人間に戻った龍水りゅうすい監督が選手にハッパをかける。



 しかし、浜甲はまこうのクローザー・取塚とりつかのストレートと超スローカーブの緩急かんきゅうが一段と冴え渡り、三者凡退に倒れてしまった。



 7回裏終了時点で雨が強くなり、審判が一旦、中断を宣言した。



「監督ぅ、何で雨がやまないんですか?」



 悪藤あくどうまゆをひそめて、空を指差す。



「雨降らしの力を私利私欲しりしよくに使った罰かもな。本来、この能力は、枯れた土地に恵みをもたらすもの。天神様がお怒りになったんやろ」



 龍水りゅうすいは深く息を吐いて、くもりなき目で空を見上げた。7回までにリードして、雨を味方にした自分のピッチングを逃げ切るつもりだった。



浜甲はまこう学園、タレントぞろいやなぁ」



 彼は誰にも聞こえないようつぶやく。



 強打者の番馬ばんばを抑え、ピッチャーを打ち込めば勝てると思っていた。だが、各選手が、ドラゴンに挑む勇者のように、知恵と力を振り絞って打ってきた。



「俺が浜甲はまこうに入っとったら、どうなっとったかな」



 試合中断の間、彼はもしもの浜甲はまこうライフを妄想していた。



 その内に、球審きゅうしんがマイクを持って、グラウンドに出てきた。



(続く)

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