261球目 巨龍のボールが打てない

 建物の2階ぐらいの高さから放たれるボールは、時速144キロでキャッチャーミットに収まった。



「ストライクっ!」



 番馬ばんばさんは金縛りに遭ったように、動かない。もう絶望的だ。



「タイムお願いしますっ!」


「ターイムっ!」



 津灯つとう番馬ばんばを手招きする。あの巨龍きょりゅうピッチャーの攻略法があるとでも?



「パワーにはパワーで対抗せえへんとね。番馬ばんばさん、あたしの手ぇ握って」


「こっ、こうか?」



 赤鬼あかおにのごつごつした手が、津灯つとうのきゃしゃな手を包みこむ。



「じゃ、いきますよ」



 津灯つとうが目を閉じると、番馬ばんばさんの腕がボコボコと沸騰ふっとうしたかのようにふくれていく。筋肉増加に耐えるスーツ型ユニフォームがちぎれ、肉襦袢じゅばんを全身にまとった鬼が現れた。



「うおおおおおお、何やコレ? めっちゃ力が湧くぅー!」



 番馬ばんばさんの背中は鬼瓦おにがわらみたいな模様の筋が刻まれている。ズボンのヒザから下がちぎれて、パンツのようになっている。同じクラスのゴリラ開力、ゴリマッチョトラ塩を上回るハイパーマッチョボディだ。



「これで、月に向かって、じゃなくて、空に向かって打って!」


「よっしゃ! 宇宙まで飛ばしたるわ!」



 番馬ばんばさんは意気揚々ようようと打席へ向かう。津灯つとうは野球グラウンドの魔物を倒した時(https://kakuyomu.jp/works/1177354054895930927/episodes/1177354054896540717)以来の超能力を発揮したが、一体どういう効果なんだろうな。



「さぁ来い、ヒョロヒョロ龍!」


「筋肉が付いただけで、俺のドラゴン・フォーシームが打てるかな?」



 龍水りゅうすいは腹から胸元にグラブを上げ、上半身だけねじってから、投げた!



 番馬ばんばさんは落下するボールをアッパースイングですくい上げる。



「ぐうう。飛べえええええ!!」



 ボールは高々と上がった。内野フライか、いや、雨雲を突き抜けていった。そして、落ちてこない……。

(続く)

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