262球目 インフィールドフライではない

「ホームランやー!」



 番馬ばんばさんは右腕を空に突き出して、一塁へ走り出す。



「いや、インフィールドフライやろ?」



 悪藤あくどうは空を見上げながら、グローブを構えている。



 審判は一言も発さない。もし、このままボールが落ちなかったら、どういうジャッジを下すのだろうか。



「あっ! ボールが見えた!」



 雨雲を割って、ボールが落ちてきた。濡れねずみの満賀まんがナイン全員が空を見上げて、ボールを待つ。



「ファースト方向や! 全員、ファースト付近へ集まれ!」



 龍水りゅうすいの指示で、7人が悪藤あくどうに向かって走る。例え落球しても、他の選手にカバーさせる気か?



「きっ、来たぁ!」



 悪藤あくどうのグローブへボールが落下する。加速がついたボールは、悪藤あくどうのグローブを突き破った。



「グアアアアアア!」


「捕る!」



 黒炭くろずみが水をまとったグローブで、ボールを捕ろうとした。しかし、ボールが水のまくでバウンドしてしまう。



「しまった!」


「俺が捕る!」


「いや、ワシが!」



 選手たちが狂ったようにボールに群がる。砂ぼこりや雨水が舞って、どうなってるかわからない。



 ラグビーのスクラムのように固まった満賀まんがナイン達の中から、ボールがコロコロ転がってきた。ボールは一塁線のライン上でピタリと止まる。



「フェア、フェア!」


「くっそー!」



 龍水りゅうすいが身を乗り出してボールを捕りに行くも、すでに番馬ばんばさんはホームベースを踏んでいた。つまり、これは――。



「ランニングホームラン打ったどー!」



(続く)

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