260球目 巨大な龍と化してもルール違反ではない

 雨が激しくなってきたが、応援団の熱気はますます上がっている。



「うーん。浜甲はまこうの奴ら、負けてまうんか?」



 六甲山ろっこうさん牧場高校の大縞おおしまは浮かない顔をしながら、頬杖ほおづえをついている。



龍水りゅうすいがあんだけええピッチャーやと思わんかったし。ほら、あの番馬ばんばが、巨大怪獣かいじゅうを前にして震える一般隊員と化してるで」



 バットを小刻みに揺らす番馬ばんばを、安仁目あにめが指差す。彼の顔は引きつって、血の気が引いている。



「あかん! こうなったら、龍水りゅうすいの気が散るよう、野次ヤジを送ったれ」



 大縞おおしまはボーダーコリーと化して、よく通る声で叫ぶ。



「トカゲ男の貧弱ボール、打ったれー!」



 安仁目あにめ名護屋なごや八木やぎ学園の木津きづ番馬ばんばの元子分の白山しらやま八百谷やおたにも、大縞に続いて野次を飛ばす。



「やーい! お前ん家、ユーレイ屋敷―!」


「全身コケが生えてるように見えるコケー!」


「この大投手・木津きづからツーベースヒット打った番馬ばんばを甘く見ると、痛い目にあうぞー!」


「干支レースでネズミ、牛、虎、ウサギに負けた敗北者―!」


「地獄に落ちてまえー!」



 皆の野次を聞いた番馬ばんばの中に、勇気の花が咲き始める。バットを握り直し、相手を挑発する。



「さぁ来いや、ヘビ人間!」



 龍水りゅうすいの目がカッと大きく見開く。赤いひとみが昼間のネコのように細長くなり、白目の部分が黄色くなった。



 彼のズボンがちぎれて、両足と尻尾がくっついて1つになる。1つになった足はどんどん伸びて、とぐろを巻き始める。ついには、マウンドを覆いつくす巨大な龍になった。



「これがヘビに見えるか、番馬ばんばぁ?」



 龍水りゅうすいがニターッと笑って、番馬ばんばを見おろす。地面から頭部まで3m近くあるだろう。



 巨龍きょりゅうの出現で、満賀まんが校の生徒は歓喜に湧き、浜甲はまこうの選手と応援団は絶望に包まれていた。



(続く)

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