259球目 強龍の特訓は1年で終わらない

 4年おきに四神しぜん戦というものが行われている。



 東洋龍(青竜)に変化する者、白い虎(白虎びゃっこ)に変化する者、巨大な赤いスズメ(朱雀すざく)に変化する者、亀と蛇(玄武げんぶ)に変化する双子による総当たりのバトルだ。優勝者には、王冠と南極旅行券が与えられる。



 6年前、龍水りゅうすい崇史たかふみは青竜代表で出場するも、9歳の白虎びゃっこ代表の女の子に敗北した。



崇史たかふみ、お前は弱い。戦うには優しすぎる!」



 大会終了後の夜、中華料理屋で、龍水りゅうすい家は反省会を開く。



「ごめん、父さん、俺は――」


「言い訳は無用! 今日から修行や! 中国行くぞ!」


「たかちゃん、頑張ってね」


「兄ちゃん、ガンバ―!」



 崇史たかふみは父とともに、中国の四川省しせんしょうへ行くことになった。



 そこで、彼はカンフーの達人パンダや、元作家の人食いトラ、キョンシーなどと戦った。この話は別の機会にしよう。



 修行の末に、局所的に雨を降らせたり、片腕をムキムキにしたり出来るようになった。その力をもって、2年前の四神しじん戦を優勝した。



※※※



 中学卒業後の3年間、学校に通っていなかったため、彼は18歳にして満賀まんが高校に入学する。そこで出会ったのは、己の力を過信するヤンキーどもだった。



「ナメとんかゴラァ!」


「金出せオラァ!」



 次々と襲いかかるこぶしをかわし、相手のみぞおちにパンチしていった。入学後1週間で、彼は無敵になる。



 彼が部活を何にするか悩んでいたところ、1人の少女が現れた。



龍水りゅうすい君、野球部に入って下さいませんかぁ?」


「ええよ。修行中にやったことあるし」



 彼がマネージャーの彼女に連れられて、野球部の部室へ行けば、タバコを吸って麻雀マージャンに興じる部員がいた。



「ゲッ!? 龍水りゅうすいだ」


「何でここに?」



 彼らは慌ててタバコをビニール袋に入れて、カバンの中へしまう。



「俺は“敗北”が嫌いや。俺が来たからには、この野球部に“勝利”をもたらしたい。だが、やる気のなき者に“勝利”はない。だから、やる気のない者は帰ってくれ」



 彼は父の受け売りの言葉をのべる。隣のマネージャーは目を輝かせて聞いていた。



「なっ、何やと? いけしゃあしゃあと」


「ケンカ強いからって、いい気になんな!」



 遊んでいた部員達が、次々と部室を出て行く。ただ1人、ロッカーの隅にいた大物だいもつが残った。



「お、俺、見返してやりてぇ! 俺をお荷物と言ったあいつら、ギャフンと言わせてぇ!」


「いい目をしとる。一緒に強くなろう」



 龍水りゅうすい大物だいもつは熱い握手をかわす。この時、満賀まんが高校野球部の歴史が動いた。



※※※



 インコース攻めの悪藤あくどう水流斬スライダー黒炭くろずみによって、6回まで浜甲はまこう打線を1点に抑えた。



 事実上の最終回、龍水りゅうすい宅部やかべを2ストライクに追い込んだ。しかし、3球連続でファールにされる。



「次で決める!」



 龍水りゅうすいは力強く投げたが、そのボールはゆるく遅い。宅部やかべのバットの下へ曲がるドロップカーブだ。



「ストライク、アウト!」



(続く)

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