258球目 龍が如くボールを傷つけない

「選手の交替をお知らせします。ピッチャー悪藤あくどう君に代わりまして、龍水りゅうすい君。4番ピッチャー龍水りゅうすい君」



 ついに、監督じきじきにマウンドに上がってきた。



「監督ぅ、久しぶりにアレ見せて下さいよぉ」


「良かろう」



 龍水りゅうすいの鼻の下から靴ヒモのように長い白ヒゲが左右に伸びる。口元が馬のように細長く伸び、緑色に変わる。腕をまくれば、所狭しに緑のうろこが生え始めている。白い鹿みたいな角が2本、帽子を突き破りながら伸びる。両耳はウサギのごとく縦に細長く伸びる。尻からは白いモップのような先端を持つ、ワニの体みたいに硬そうな尻尾が出てきた。



 龍水りゅうすい崇史たかふみは、日本昔話に出てくる龍を、そのまま人間形態にしたような姿に変わった。



「オー! ファーイースト極東のリュウ! ワールドで10人ほどのレアです!」


「そんなに少ねぇのか、龍人って」



 たしかに、漫画やアニメでは結構見たことあるが、リアルの龍人と会うのは初めてだ。龍と称しながら、トカゲやワニの場合が多いし。



3。フーン!」



 龍水りゅうすいは大きな鼻穴から、機関車きかんしゃの煙のごとく大量の白い息を吐き出す。彼が左腕で力こぶを作れば、赤鬼あかおに番馬ばんばさんより太いぼどぃビルダー顔負けの腕になった。



宅部やかべぇー! 俺様の前に出ろー!」



 番馬ばんばさんの応援に対して、宅部やかべさんは軽くうなずく。



 龍水りゅうすいは両足でプレートを踏んでいる。腹から胸元にグラブを上げ、ゆっくり右足を上げて――。



「フシュ!」



 彼は人をるかのごとく力強く腕を振った。ど真ん中低めにボールが突き刺さる。



「ストライクっ!」



 浜甲はまこう安打あんだ製造機せいぞうき宅部やかべさんが、全く動けなかった。



東代とうだい君、さっきのボールは何キロ?」


「ひゃ、ひゃ、150キロです!」



 東代とうだいのスピードガンを持つ手が震えている。阪体大はんたいだい天塩あまじおと同じぐらいの速球投げるなんて、スピード違反だ。地方予選の3回戦で出てくるレベルのPじゃねぇ!



(続く)

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