29球目 入部ラッシュが止まらない

 津灯つとうが巨人の太ももにしがみついて何か言うと、巨人が砂山すなやまのように崩れていく。さっきまでの暴れっぷりが嘘みたいに、ただの動かない地面だ。



「あなたは凄い超能力者です! 俺っちを弟子にして下さい!」



 カラス男が津灯つとうの前で頭を下げる。津灯つとうは体操着の砂をはたきながら答える。



「そうねー。じゃあ、野球部に入ってくれる? そしたら、色々なことを教えてあげるわ」


「ははっ! ありがたや、ありがたや! あっ、申し遅れましたが、俺っちは3年の烏丸からすま天飛てんと、妖怪や悪霊退治を行っております」


「あたしは津灯つとう麻里まり。敬語じゃなくてタメでいいよ」



 烏丸からすまさんが入部してしまった。よく見たら、始業式の日に電線で鳴いていたカラス男か。人間の顔に口ばし、手が羽というヴィジュアルが、烏天狗てんぐを思わせる。



烏丸からすまさんと津灯つとうさん、こいつを成仏じょうぶつさせてほしいんやけど」


「何ぃ!? ワイは悪霊やないし、甲子園行くまでは絶対に成仏じょうぶつせぇへんぞ!」



 取塚とりつかさんと幽霊がいがみ合っている。


「悪い妖気ようきないから、ムリに除霊できへんなぁ」


「野球部入って、甲子園行きましょうよ」



 ゴーストバスターコンビの説得で、取塚とりつかさんは口をへの字にして入部を決意する。彼は氷のように冷え切った目で夕川ゆうかわさんを見る。



「甲子園出たら成仏じょうぶつしろよ」


「わかっとる。ワイの左腕で、野球部を甲子園連れてったるで」



 幽霊は取塚とりつかさんの体の中に入って、左腕を扇風機みたいに回す。ついに8人目だ、ヤバイ。



 ところが、“野球部殺し”によってケガを負った千井田ちいださんと番馬ばんばさんが保健室に行き、真池まいけがハートブレイクと称して帰宅したことで、グラウンド再整備のメンバーが減ってしまった。



 こうして、俺達は日が暮れるまで、荒れたグラウンドの整備を行った。当然、部員の勧誘かんゆうは出来ない。俺は、野球部入部の波から逃げられそうだ。



(水宮入部まであと1人)

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