28球目 たまには人外視点でいいじゃない

※今回は野球部を潰すモンスター視点です



 我を混沌カオスから呼び出したのは、高飛車な女だった。



 女は失礼にも我を指差して命じる。



「フォロボス、主人が命じるわ。浜甲学園はまこうがくえんの野球部をつぶしなさい!」


「ヤキューブ? そんなものでいいのか? 我が本気を出せば、1つの国を滅ぼせるというのに」


「フン! どうせ、そんな命令したら、私の魂を永遠にもらうか、家族が死に絶えるか、代償が大きいんでしょう」



 察しのいい女だ。悪魔は主人の命令を叶える代わりに、何かしらの代償をいただく。その代償がとても美味いので、悪魔家業はやめられん。



「では、ハマコーのヤキューブをつぶす願いでいいな?」


「ええ。私の髪をあなたに捧げるわ」



 女がこうべを垂れる。我は唇を伸ばして、女の髪の生気を吸い取る。女のつやのある黒髪が、しなびた白髪に変わった。



「よろしい。ヤキューブをつぶしてやろう」



 我は女との契約どおり、浜甲学園はまこうがくえんに憑いて、ヤキューブをつぶしてきた。復活を企む者あれば、悪夢を見せたり、事故にあわせたり、財布を盗んだり、黒猫を1日に10回見せたり、様々な嫌がらせをしてきた。野球部がつぶれる度に、我と女は祝杯をかわしたものだ。



 しかし、ある時から我はむなしさを覚える。



 群衆ぐんしゅうが逃げ惑う姿が好きな我が、こんな狭い土地のヤキューブつぶしで満足していいものか。原型がわからなくなるぐらい、破壊しつくしたい。我の衝動は抑えきれぬ。



※※※



 今、我の太腿ふとももにヤキューブ復活を企む女がつかまっている。振り落とそうとするが、のりでくっついたかのようにはがれない。



「ただ今をもって、浜甲学園はまこうがくえん野球部を解散します!」


 またヤキューブがつぶれた。これで、我は眠ることが出来る。



「巨人さん、野球部をつぶすん、飽きたやろ?」



 女が我の脳内に直接語りかけてくる。



「この学校ごと壊せば、ここから解放されるよ」



 彼女の一言で、我をしばり付ける鎖が切れた。



 我はグラウンドを出て、学校の窓ガラスを割ったり、建物の一部をパズルのように分解する。教師や生徒達が青白い顔で叫びながら逃げていく。



 これだ! これこそが、我の求めていたものだ。



 奇妙な術を出す者や、獣に化けて噛みつく者もいるが、我の強大な力の前で、全て無力だ。全ての抵抗者をなぎ払い、我は雄叫びを上げる。



「我は自由だ! 人間よ、ひれ伏すがいい!」



 我の背中から自由の翼が生える。これで、いつでも魔界に帰れる。帰る前に、ここら一帯を瓦礫がれきの山に変えてやろう。



(水宮入部まであと3人)

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