27球目 バケモノを説得できない

 芝生の巨人を倒そうと、千井田ちいださんがチーター化、番馬ばんばさんが赤鬼あかおに化して戦う。しかし、土の体は崩れても、形状記憶合金けいじょうきおくごうきんでも入ってるのか、即元通りだ。あっ、2人が蹴飛ばされて、フェンスに激突する。戦闘不能だ。



「アカン! こいつ、性別ないから、僕の誘惑の瞳が通じない!」



 ×印の瞳の山科やましなさんは両手を挙げて、お手上げの様子だ。取塚とりつかさんと山科やましなファンクラブの方々もベンチの中に隠れる。東代とうだいはピッチャー太郎01をドライバーでいじっているが、絶対に間に合わない。



「フフフ。こういうモンスターは、オレのデスヴォイスでノックアウトするもんさ。くらえ!」



 真池まいけがかわき切った声を上げて、芝生の巨人に挑む。だが、一瞬の内に砂に飲み込まれ、ポンペイ遺跡の人々のようになってしまう。



「何なんだよ、これ!」



 俺は芝生の巨人に手当たり次第にボールを投げるが、ダメージ0だ。巨人は壊れたCDみたいに「ヤキューブツブス」と連呼する。



「出たな、悪霊! 今日こそ退治してやる!」



 空から声が聞こえたので、見上げてみれば、カラスの羽と口ばしをつけた男が降りてくる。彼は金色の杖を巨人のすねにぶつけて、怪しい呪文を唱える。



「破! 破! 破!」



 芝生の巨人の動きは鈍くなったが、大きな石をあちこちに落として危険だ。警察か自衛隊を呼んだ方がいいのでは。



「ねぇ! あなたはこのモンスターの倒し方わかるの?」


「わからん。俺っちが入学してから、何度もこの“野球部殺し”と遭遇しているけど、完全に消滅したためしがあらへん。ただ、野球部がつぶれたら、一時的におとなしくなるみたいや」



 野球部が復活できなかったのは、このモンスターのせいか。でも、野球部をつぶして何の得があるんだ?



「皆と楽しく野球やりたいだけやのに」



 津灯つとうは巨人に向かって歩いていく。


「おっ、おい! 近づくな、危ないぞ」


津灯つとうさん、戻って来い!」



 カラス男と俺が叫んでも、彼女は歩みを止めない。しかも、大木の足をよじ登って、巨人の太ももをコアラのようにしがみつく。



「ただ今をもって、浜甲学園はまこうがくえん野球部を解散します!」



(水宮入部まであと3人)

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