26球目 死んだら試合に出られない

 30年前の浜甲学園はまこうがくえん野球部は、夕川ゆうかわれい投手の活躍によって、県大会決勝まで進んだ。夕川投手の速球と落差の大きいスローカーブななめに変化は、強豪校の強打者を抑えまくっていた。



 決勝戦の朝、夕川ゆうかわはいつも通り10キロを走りに行く。自分が甲子園に手が届く位置まで来たので、かなり興奮していた。気合いのハチマキをつけて、頬をバシバシ叩く。



「今日も頑張るぞー」



 彼は自宅から浜甲はまこうまでの間を五往復する。道ゆく人が頑張ってな、応援しとると、声をかけてくれる。彼は明るく手を振って、走りを加速させる。



 交差点にさしかかった時、三輪車の子どもにトラックが突っ込むのが見えた。彼は「危ない!」と叫んで、子どもを歩道へ突き飛ばす。子どもは助かったが、彼の体は3メートル先の電柱に衝突して帰らぬ人となった。



 夕川ゆうかわなき浜甲学園はまこうがくえん良徳学園りょうとくがくえんに3―15の大敗で、甲子園出場を逃した。それ以降の浜甲はまこうは、初戦突破できるかできないかの弱小校に成り下がる。



 20年前に野球部員の飲酒や喫煙きつえん、集団いじめが発覚して廃部に。その後、野球部を復活させようとする者が何度か現れたが、部員が集まらずに失敗している。



※※※



「というワケで、ワイは野球部を復活させようと、色んな奴に憑いて頑張ってきたんや」



 腕を組んだ幽霊の夕川ゆうかわさんが目を閉じて、うんうんうなずく。憑かれた取塚とりつかさんは額にしわを刻んで、明らかに嫌がっている。



夕川ゆうかわさんほどの熱意があったら、もっと前に野球部は復活してたのに」


「ワイの灼熱しゃくねつの精神があっても、どうにもならん敵がおるんや。ほら、そいつが起きよったで」



 夕川ゆうかわさんがあごをしゃくると、外野の芝生が沸騰ふっとうした湯のように、ふくらんだり、へこんだりしている。そこから緑色の巨人が生まれて、虫のよだれをたらしながら、しわがれた声で叫ぶ。



「ヤキューブツブス!」



 あっ! 昨日、東代とうだいとの対戦時に聞こえた謎の声だ!



(水宮入部まであと3人)

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