225球目 鬼の豪速球で死にたくない

 番馬ばんばさんは「ボールをぶつけた相手が死んでも犯罪にならない」と知って、野球を始めたヤバイお方だ(20球目参照https://kakuyomu.jp/works/1177354054895930927/episodes/1177354054896372647)。おまけに、ボールが鬼速く、コントロールがクソ悪い(49球目参照https://kakuyomu.jp/works/1177354054895930927/episodes/1177354054897177561)。正直言って、不安しかない。



 ただ、キャッチャーが東代とうだいから火星ひぼしに代わったのが、一筋の光だ。手が長い宇宙人・火星ひぼしなら、どんな暴投でも捕ってくれるだろう。



 投球練習でも、明らかに、バッターがいたらデッドボールのゾーンへ投げていた。



安仁目あにめ―、逃げろ! 4点リードあるから、当たって死なんでええぞ」



 六甲山ろっこうさん大縞おおしまは、追加点より味方の命を優先する名キャプテンだな。



 それに引きかえ、うちのキャプテンは――。



番馬ばんばさーん、思いっきりぶつけちゃってええですよー!」



 まぶしい笑顔で、死球デッドボールの指示を出している。怖い、悪魔だ。



「よっしゃあ! 死ねぇ、アニ豚ぁ!」



 番馬ばんばさんがインコースへ豪速球を投げる。



「ひっ、ひえええええええ!」



 安仁目あにめはすっとんきょうな声を上げてのけぞる。



「ボ、ストラーイクッ!」



 ホームベースから離れて立っても、番馬ばんばさんのボールは凶器きょうきに見えるのだろう。ボールが少し焦げて煙が出ているが、火星ひぼしは無表情で捕っている。オラゴン星人、ハンパねぇ。



 その後、5球かけて、無事に安仁目あにめは見逃し三振してくれた。



 8回表、浜甲はまこう打線は三者凡退。



 8回裏、六甲山ろっこうさん打線は無抵抗の三者三振。



 ついに、最終回の攻撃になった。だが、先頭は俺で、必ず番馬ばんばさんに打席が回る。逆転のチャンスはまだ十分にある。



「8回は三者凡退やっだけど、ファインプレーながったら、オールヒットやっだよ! みんな打でる、強いゴロ打づ意識で!」



 グル監が俺と山科やましなさんと番馬ばんばさんに甘いスイカの切れ端を渡しながら、ゲキを飛ばす。何かヒット打てそうな気がしてきたぞ。



六甲山ろっこうさん牧場高校、ピッチャー豊武とよたけ君に代わりまして、大縞おおしま君」



 場内アナウンスの声が、俺達を奈落ならくの底へ突き落とした。



(続く)

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