224球目 現実に情はない

 1死満塁フルベースで外野手不在のシフトを敷くとは、一か八かの大勝負に出たな。



「スーちゃん、ランニングホームラン打っでー!」



 本賀ほんが津灯つとうの応援に脂ぎった笑顔で応える。チーム1の動体視力を誇る彼女なら、何とかしてくれるはずだ。



 豊武とよたけは打たれまいと、ライズボールを投げ続ける。ボールとストライクが交互にきて2-2になった。



 俺なら5球目はストレートを投げる。豊武とよたけ外角高めアウトハイに、ストレートを投げてきた。



 本賀ほんがは迷わず打つ。打球は上がって、ファールゾーンへ。



「もえええええ!」



 安仁目あにめが甲高い奇声を発して、フェンス直前でボールを捕った。豊武とよたけの球威が勝ってしまった。



「うがああああああ!」



 今度は、番馬ばんばさんが節分の鬼の勢いで、ホームへ走る。安仁目あにめは素早くホームへ送球する。牛の戸神とがみはボールを捕ると、ホームベースにタッチしに行く。



「アウト!」



 番馬ばんばさんの好走塁が実らなかった。満塁じゃなければ、激突からの落球があったのに……。



 俺達はくもり空の気分のまま、守備についた。



 前の蔵良くらよしの打席のヒヤリが起きないよう、センターに番馬ばんばさんを置いて、8人内野シフトを敷く。



 烏丸からすま東代とうだい本賀ほんががベンチに下がり、キャッチャーは火星ひぼし、ファーストは真池まいけ、サードは山科やましな、レフトは千井田ちいだ、ライトは取塚とりつかという布陣に変わっている。



 なお、火星ひぼしはリードが出来ないので、火星ひぼしと視覚を共有した東代とうだい(オラゴン星人の超能力)のサインを俺が見て、投げると言うシステムになった。



 このシステムに不備はなく、柳内やぎうち塀田へいだを打ち取ってツーアウトになった。



 しかし、豊武とよたけの打球が無人のライトへ飛ぶ。



「ヒッヒーン! スリーベースヒット!」



 豊武とよたけひづめをカチカチ叩いて喜んでいる。



 続く、戸神とがみの打球はレフト方向へ……。豊武とよたけがホームインして1-5になる。



「ブモ―。ツーベース打っちゃったぁ❤」



 戸神とよたけは豊満な胸を揺らして、恥ずかしがっている。



 浜甲はまこうナインはマウンドに集合し、伝令の東代とうだいがやって来た。



「ミスター・ミズミヤ、残念ですが、ボールのパワーがダウンしていますブハ」


「フガ―。しゃあない、宅部やかべさん頼んます」



 俺がボールを宅部やかべさんに渡そうとすれば、東代とうだいがボールを奪い取る。



「ノー。ピッチャーはミスター・バンバですブハ」


番馬ばんばぁ!?」



 番馬ばんばさんは山んばのように、ニターッと怖い笑みを浮かべている。



「つ、つ、ついに、俺様のボールでケンカできる!」



(続く)

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