49球目 スピードガンは嘘をつかない

 グル監の提案により、第1回浜甲はまこう野球部スピードコンテストが開催されることになった。ルールは単純で、誰が一番速いボールを投げれるか競うものだ。10球投げて一番速かった球速が個人記録になる。



 開催に先立ち、津灯つとうキャプテンがストレートの握り方を皆に教えた。



「では、皆さん。ピースサインを作って下さい」



 俺と山科やましなさんと取塚とりつかさん以外がピースサインをすれば、まるで集合写真だ。



「薬指から親指を離してあげて、その間にボールを挟む。親指はい目にしっかりかけてね。あとは、残った人差し指と中指でボールを押さえ込む。この2つの指もい目にかけるよ。あと、人差し指と中指を離し過ぎると、力のないボールになっちゃうんで気を付けてね」



 皆がストレートの握りを習得した。今度は投げ方の説明だ。



 津灯はオーバースロー(真上)、スリークォーター(ななめ)、サイドスロー(横)、アンダースロー(下)の4種類を実践する。いずれのフォームでも、彼女の体の動きはしなやかで、速球を投げる雰囲気がある。



「スピードコンテストの1位から3位まで、私の特製料理をごちそうしますから、皆さん頑張って下さいね」



 皆のシャドウ・ピッチングの勢いが増す。





 スピードコンテストは、50音順で投げていく。



 ジャンピングスローの烏丸からすまさんは時速128キロ、チーターハンズの千井田ちいださんは124キロで、まずまずの結果を残した。



 東代とうだいとの対決で体感150キロの速球を投げた津灯つとうは、意外に振るわず131キロ止まり。まぁ、高1の春、女性というハンデで、この数字は立派だろう。



 サイドスローの東代とうだいは120キロで、弱肩じゃっけんなのが不安だ。30球肩の取塚とりつかさん(夕川ゆうかわ)は144キロを出す。



 番馬ばんばさんは鬼と化して、豪速球を投げる。何と148キロ、プロ級だ。東代とうだいが捕れないほどの荒れ球ぶりで、打者が立っていたら病院送りだろう。実戦で使うのは難しい。



 タコみたいにくにゃくにゃしたフォームの火星ひぼしは125キロ、ほぼ手投げの本賀ほんがは94キロ、ボールがおじぎしまくる真池まいけは116キロで、3位以内はあきらめてもらおう。



 ついに、俺の出番だ。番馬ばんばさんの記録を抜くのは難しいが、140キロを出してやる。セット・ポジションから足を上げて、神奈川かながわ県の野球少年を苦しめてきたストレートを投じる。



(初の練習試合まであと6日)

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