初めての食事2

 整理券を受け取って店の外で待つこと約15分。

 私の車の隣に駐車した白い軽自動車から降りてきたジャスがこちらに手を振りながら歩いてきた。


 「ごめんねー。帰ろうとしたら呼び止められて、上司の世間話に付き合わされてた。」


 そう言って私の隣に並んだジャスからはふわりとタバコのにおいがした。

 きっとここに来るまでにまた一服してきたのだろう。

 

 「全然気にしなくていいよ。お疲れ様。」

 

 「お疲れー。あ、番号もらってくれたんだ。ありがとね。」


 ジャスが私の手に握られてる番号札を見てそう言うと、店内へ視線を向ける。

 お店の中には家族連れが何組かソファーに座って待っているのが見えた。  


 「結構いるねー。どのぐらい待つって言われた?」


 「20分ぐらいって言ってた。ジャスから連絡もらった頃に受け取ったからあと5分ぐらいじゃないかな。」


 「そっか、じゃあ待っとくか。」


 そう言ってジャスはスマホを取り出す。

 私も何となくスマホをいじりだした。


 「今日って仕事だったの?」


 スマホをいじる手は止めないまま、ジャスがそう問いかけてきた。

 

 「そうだよ。」


みんなでいると会話を振られるまで黙っているタイプに見えていたからジャスから会話を始めたことに少し驚きつつ答える。


 「ゆずは雑貨屋さんの事務やってるんだっけ?」


 「うん。入社して一か月はお店の方で店員してたからまだ事務職は一か月半ぐらいしかやってないけど、やっと少し慣れてきたかなって感じ。ジャスはどう?」


 「今週から異動になって、今はスポーツショップの近くにある支店にいる。前の店舗とは違って、呼び込みの業務はなくて、お店に来た人にプランの説明とかする接客がメインになったかな。」


 「異動って早くない?まだ二か月ぐらいだよね?」


 「なんかうちの会社は定期的に支店のスタッフを回してるらしい。来月からは店長を他店の人と交換するって言ってたし。」


 「いろんな店舗を回ることでいろいろ学ばせるってこと?でも、二か月で異動させられたら一緒に働いてる人と仲良くなれなさそう。」


 「んー、そうでもないよ。店舗間の交流も結構あるから前の店舗いた時も今の店舗の人も交えて飲み会とかしてたし。今でも前の店舗の人と飲みに行ったりするし。」


 「飲み会かー。そういうのあったら確かにコミュニケーションもとりやすいよね。私も会社の人飲み会とか行きたいなー。」


 「ゆずの会社は飲み会とかないの?」


 「入社してすぐに同期会はやったけど一回きりでそのあとは集まってないし、今の部署の人とは一回も飲みに行ってないかな。周りの人は既婚者ばかりで家庭があるからなかなか飲みには行けないっぽい。」


 「そっか。やっぱ家庭持つと遊んだりするの難しそうだね。」


 「そうだね。」



 会話が途切れてしまった。

 お互いスマホをいじっているし別に無言のままでもいいのだけれど、私は何となく何かを話さなくてはいけないような焦りを感じる。

 

 何か、共通の話題とかあったっけ……。


 頭をフル回転させて考えるけれど、何も浮かばない。

 ジャス=アイドル歌手好きの方程式はできているが、私自身はアイドルが苦手なのでアイドルの話題では私がついていける気がしない。

 

 もういいや、ゲームでもしよう。


 『番号札325番のお客様いらっしゃいますかー』


 会話を諦めかけた時、スピーカーから私の持つ番号を呼ぶ声が聞こえた。


 「あ、ジャス、呼ばれたよ。」


 「やった。やっとご飯が食べれる。おなかすいてたんだよねー」


 ジャスは嬉しそうにそう言うとスマホをしまって私の後をついてくる。

 子供のように笑うジャスを見て私も少し楽しくなった。



 「ゆずは何食べる?」


 席に着くなり注文用のタッチパネルを操作しながらジャスがそう尋ねてくる。


 「マグロとサーモン。ジャスは何食べるの?」


 私は二人分のお茶を用意しながらそう答える。

 

 「んー、とりあえず同じの頼んどく。」


 ジャスはそう言ってマグロとサーモンを2皿ずつ頼むと、レーンに流れているお寿司の中からオニオンサーモンといくらを取って食べ始める。


 私もレーンに流れているお寿司を眺めてみるが特に食べたいものがなかったので追加で注文することにした。


 「炙りサーモン食べる?」


 「うん。」

 

 「たまご食べる?」


 「うん。」


 「真鯛食べる?」


 「うん。」


 「なんでも食べるんだな。」


 私が聞くものすべてに「うん」と言ってくるもんだからついツッコミをいれてしまった。


 「おなかすいてるから何でも食べたくなっちゃう。」


 ジャスは幸せそうな笑顔を浮かべてそう言ってくる。

 どうやら本当におなかがすいていたらしい。

 私が注文している間にもすでにもう2皿分食べていた。


 「ゆずは流れてくるもの食べないの?」


 「食べようと思ったんだけど、好きなの流れてないからやめた。」


 「そっか。あ、注文したもの来たよ。」

 

 ジャスはそういうと、注文用のレーンを流れてきたお寿司を取って私の前に並べていく。

 

 「ありがと。」


 「たくさん食べな。」


 「え、おごり?」


 「ゆずのね。」

 

 「それは無理。」


 テンポのいいやり取りをしてお互いにくすりと笑う。

 こんな気軽な会話ができるのは本当に久しぶりで楽しかった。

 

 

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隣で笑う 幸村 凛 @minatsuki313

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