第二四話
引っ越しを終えた翌日、早速狩りに行く事となった。
今回は木を少し調達したかったのもあって、いつもの南側ではない森に行く事ととなった。
その森は木が多く鬱蒼としている為、足元に生えるものは少ない。
その代わりに魔力を吸った木が実らせた果実等は豊富だ。
しかし鬱蒼とした森は危険度が高く、どうしてもある程度の経験を詰んでいる者でないと迷ってしまったり、普通の獣に襲われて怪我してしまうこともある。
一番の危険は魔獣との遭遇だが、この部分は国が定期的に行っている駆除で少しは抑えられている。
ちなみに木は個人が伐採する分には特に問題ないそうだ。
むしろ多少、間伐をした方が有用な木材になる為、推奨される所はあるが、この世界の魔獣という存在の為に、専門の業者みたいなものはなく国が数年に一回に大量の人手を募ってやる位だそうだ。
今日は主に木材の調達で出来たら狩猟という形で出発することになった。
森に入ると以前に入っていた森とは全く違った。木が多く森全体が暗いのだ。夏に近く段々と気温が上がっているのだが森に入るとヒヤリとした感じがする。ラナの話によるとお父さんにもこの森には一人では絶対に入らないように言われていたという。
今日は四人という事で許可が出たという事だが、警戒を絶対に怠らない事を約束されたという。人が余り出入りしないという事で、普通の獣が多くその中から魔獣が発生する確立が上がる為、どうしても危険度的に上がってしまっているらしい。
「近くに危険はなさそうだし、この季節なら涼しいからいいね」
「魔獣さえ出なければ涼しくていいな。ノルンここでは昼寝禁止だからな」
「はーい」
三人に特に緊張感は感じられず、大丈夫そうだ。
ただ自分はちょっと不気味な雰囲気に少し押され気味だ。
「じゃあ浅い所で適当にやったら戻ろうか」
「そうだな。あんまり深い所には行かない方がいいだろう。準備だけはしておくからショーは適当にパパっとやっちゃってくれ」
三人にはナノマシンの話と一緒に刀の事も話してあるので、ある程度の太さの木ならそのまま切れる事は説明してある。猪があそこまで綺麗に切れた事に納得できたようだった。なので木を切る事に対して特に反対もなく、輸送手段もあるのでこの流れとなったのだった。
「バル。薪にするのにいい木ってなにか目安あるの?」
「んー確か葉っぱのある木の方がいいはずだな。針みたいな葉の木だと火力が出にくくて使いにくって聞いてる」
(広葉樹と針葉樹だな)
「じゃあ普通の葉が付いてる木を中心に色々と集めてみるよ。」
四人でバラバラにならないように森の中を進んで行く。
ラナとノルンで周囲を警戒して貰いながら、バルに近くにいて貰いながら密集している木を中心に切っては収納してを繰り返して行く。
数時間、同じことを繰り返してそれなりの量が集まった頃にラナとノルンが顔を見合わせて頷いた後にこちらに近付いて来た。
「森の外に向かった方がいいかも」
「だいぶ向こうにあった気配が一個きえたの」
最初はなにを言っているのか理解できなかったが、なんとなく予想が出来た。
離れていた所にあった二つの気配のうちの一つが消えたという事は争っていてどっちかが片方を倒した可能性があるということだ。しかも争っていたなら興奮状態にあるかもしれない。今こちらを認識したとしたら間違いなく排除に向かってくるだろう。
「なるべく刺激しないように離れよう」
バルもその事を察知したのかすぐに行動に移し始める。
「ノルン、前方の警戒をお願い。私は後方を警戒しながら下がるよ」
ノルンが前方に出るとバルもその横に向かう。
四人は遠方のナニカの気がこちらに向わない様に注意しながら森の外へ向かう
「ちょっとヤバいかも」
ラナがそう言うとノルンも気付いたのか、後ろを振り向いて弓に矢をつがえた。
バルもそれに気付くとノルンの前に出た。
ナニカが物凄い勢いでこちらに向ってきているのか、ラナとノルンの視線の先の木々から鳥が飛び立っているのが見えた。近くの木立が揺れたと思った瞬間にノルンは矢を放った。
木立から飛び出した魔獣の頭にノルンの矢は放たれたのだが、当たる寸前で前足で弾かれてしまった。
飛び出して来た魔獣は地球でいうライオンのような風貌をしていた。違いがあるとすれば額にはもう一つ目がある事と真上に生えた太い角だった。角は真っすぐでは無く突き上げたものを逃がさない為なのか、前方へ少し曲がる感じになっていた。
最初の矢が効いているのかそのまま突進してくることは無かったが四人が視界に入る位置で様子も伺っているようだった。
『今の状態では対処しきれないと判断しますので、緊急処置に入ります』
頭の中でナノマシンが言うが早いか身体が動く。
腰の刀に手を掛けた状態で走り込む、ライオンの方もそれを呑気に見ている訳も無く、右前足で反撃に出るが、そのまま抜いた刀で腕ごと切り上げた。流石に腕を失った事に戸惑ったのか一瞬、反応が鈍くなるがそのまま倒れるなんていう事はなかった。
その時ラナが右側、ライオンから見ると左側から飛び出すが、こちらに角で突き上げようとして下げた頭をそのまま後方へ下がった。自分の身体はそれを更に踏み込んで追い、切り上げた刀を首元へ振り下ろした。ラナの方へ注意が向いてしまっていたライオンは成す術無くそのまま地に伏せることになった。
『危険生物の排除を確認しました。二の腕の処置に入ります。』
四人はそのまま数秒間無言のままライオンの死体を見つめていた。
「やったのか?」
早々に意識を取り戻したバルが訪ねる。
「なんとかなったみたい・・・」
「ふいー」
それぞれに声を上げ始める。
「それにしてもショー凄いな。あんな流れる様に切り込むの始めてみたわ」
「あー。あれナノマシンだ。危険すぎたから助力したみたい」
「でもすごかったよ、あっという間だった!」
自分的にはなんか納得いかなかったが、皆の安全が守れたということでよしとするかと思い、先程ナノマシンに言われた二の腕を確認して見る。
予想以上に深い傷があるが傷みがほぼ無いのはナノマシンが傷みの抑制をしているからだろう。自分が左腕を見た事で皆気付いたのか傷を見て慌て始める。
「血!血!」
「自分の鞄の中に変な布があるからそれ当てて適当なもので巻いてくれるかな?」
「ポーション!ポーション!」
「あ!大丈夫!そこまでしなくても勝手に治るから」
「え!?結構深いよ!」
「ナノマシンです」
「「「あー」」」
取り敢えず荷物から救急用品を出してもらい外傷用のパッチを当てるとその上に清潔な布を被せ適当な物で巻いてもらった。流れた血は水で洗い流して応急処置は終わった。
「これはどうする?」
「バルの鞄に入りきる?」
「ぎりぎりいけるかな?やってみるよ」
DistortedTopiaー歪められた世界ー けだま @hakononakanokedama
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