第23話
地下室に入ると同時に二人が身構える。
しかし、何秒経っても特に行動は起こさなかった。
不思議に思って中に入って行くとラナに手で制される。
「なんか大きいものがあるんだけど動く気配がないの」
バルが盾を構えて前に出ると同時に明かりを渡された。
自分の目では暗すぎて奥に何があるか見えなかったので明かりを上に持ち上げて奥を確認してみた。確かに奥の方に何か大きなものの影が見える。
シルエットがなんか見た事が有るような無いような・・・
(奥にあるのは何か魔力とかで動くものか?)
『いいえ。恐らく木彫りの物になります。術式は確認できていないので可動するものではないようです』
確かに動くような物なら事前に報告してくるだろう。
「とりあえず動くものではないようだから目視出来るように近付いてみる」
ラナ達には念の為、警戒はしてもらったまま数歩進んでいく。
そして影がはっきりと姿の確認出来る所まで来た時に全身から力が抜けてしまった。
更に近付いて動くことがない事を確認してからラナたちに声をかけた
「大丈夫、木彫りの動物だよ」
「木彫りの動物?」
この世界では木で動物を彫るなんていう発想は無いのか、それともラナ達が見た事がないのかはわからないが見た事がないものだったらしい。
取り敢えず明るくして説明しようと部屋の壁に設置されている幾つかの台座に魔石を置いて光を灯す。
はっきりと見えた姿は間違いなく見た事のある造形をした物だった。
部屋を歩き周って台座に全部明かりを灯そうとしているのに気付いたのか、皆も手伝ってくれた。
部屋自体は家の大きさと同じ位みたいだが、体感的には広く思える。
見渡して見ると簡素な作業台と木を彫るための道具、他には木を削る為に試行錯誤していたのか色々な形の鉄製品がまとまって置かれていた。
他には木箱が幾つか置かれている程度だった。
三人は木彫りの像を眺め回していた。本体をペチペチと叩いたり口に加えた魚を見た事ないようで首を傾げていた。
「すんごい細かく作ってあるね」
「生きてるみたいだな」
「今にも動き出しそうだよ」
その躍動感あふれる熊は地球のアレだろう。
恐らくここに前に住んでいたという人が作ったもので間違いない。
ただ作ったはいいが持ち出せる物でもなかったのでそのままにされていたようだ。
「ラナはこれを見ても特に思いつくような事はない?」
「んー特にないけど、私に聞くってことは前の世界に関係あるってこと?」
「うん、自分の住んでた国で有名な木彫りの熊だね。これを作った人がどんな感じで知っていたのかは分からないけど多分珍しい部類の大きさかな?」
それにしてもどんだけ頑張って作ったのだろう?
短期間で作れそうな感じはないよな。これだけの大きさと精密さもそうだけど、部屋の中の道具の様子を見るとかなり試行錯誤がされていたように見える。
「どうするのこれ?」
「地下使う予定もないしそのままかな」
元々、外で作業する予定だったし、地下室付きの物件を探してた訳ではないので使い道は思いつかない。
「じゃあ俺に地下室を使わせてもらってもいいかな?これからの季節だと涼しいから作業が捗りそうだ。」
「あぁ、問題ないよ」
「じゃあ後で少し道具を持ち込ませてもらうよ」
「そういえば鉄って錆びても使えるのかな?」
「簡単な錆びなら落とせるから問題ないけど中に入っちゃうと鋳潰して使える部分をとる事になるかな」
「じゃあそこのはどうかな?」
「んー」
バルはまとまっていた道具をいくつか取って確認する。
「手入れはそれなりにされてるみたいだから素材としてならいけそうだな」
「じゃあバルに引き取ってもらおう。後で持っていくの手伝うよ」
「じゃあ親父に渡して処理してもらうよ」
「それが使用料って事でね」
他には目につく物はなさそうだったので、地下の探検は終わりになった。
この家の前の持ち主を探してみるのもいいかもしれないな。
この木彫りをこうまでして作ったならなにかしらの興味を持ってるかもしれない。
一つの目標として頭の片隅に置いておく事にする。
「もうやることなくなっちゃったんだよね?」
「二階で見てないとこがあるからそこ確認するくらいかな」
「じゃあパパっと見にいっちゃお」
四人で二階に上がって行く。
階段は補強されているのか、前日のような不安な感じは無くなっていた。
二階に上がるとそれぞれの部屋を見ていく、部屋自体は狭めで三つ並んでいる。
前日は軽く見ただけだったので細かい部分を見てはいなかった。
置いてある物はベッドと服が数着掛けられる場所と引き出しがついた、簡素なワードローブがある程度だ。
それぞれの部屋の天井とか床も見てみたが問題がありそうな所は無かった。
『内部の腐敗が進んでいる場所があり、表面は補強しましたが時間経過により損傷する可能性がありますが、今後の処理はどうしますか?』
(何か処置方法は?)
『木材を用意して頂ければ処置しておきます』
(じゃあ後で用意するよ)
「住むのに問題なさそうだからなにもやる事ないね」
「時間あまっちゃったねー。食料でも買い行く?」
「そうするかな」
「じゃあ皆でおかいものー」
皆で一階に降りると、特に持つものもないのでそのまま食料品が売ってる市場の方に向かう。多少買い込んでもいいんだけど、資金的にはそこまでの余裕はないな。
ラナの家でお世話になっていた時に食べた物を思い出しつつ何を買うかを考える。
市場に着くとそこまで考える必要は無かった。必要というか暇が無かった。
ラナとノルンが数日分の食料と必要な物を揃えてしまった。しかも顔見知りのお店だったり、お母さんが常連だからという事でおまけまで付けて貰った状態だったから予想以上の荷物になって、男二人はただの荷物持ちだった。
流石に人前で自分の魔法鞄にどんどん入れていける量でもなく、抱えて帰る事になってしまった。ついでに買ったお昼ご飯を家に帰ると皆で食べて解散する事になった。ラナも連日行くのは控える事と調子を考えて動く事を約束する事によって、出掛ける許可が出たらしく翌日はまた森へ行くこととなった。
明日からは狩りと採取の他に木の補充だな。更に料理も自分かちょっとやる事、増えるけど、まぁなんとかなるかなという楽観視でいた。
実際にやってみるとかなり厳しいのは数日も経たない内に実感することになってしまった。
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