第3話

「知ってる天井……ですね」


「お嬢様!あぁ、旦那様方にお知らせに行かなければ」


そう言って傍らに付き添っていたメイドが駆け出して行く、そういえば魔法使ったまま考え事してて意識を失ったんだったわ……


「なんて馬鹿な失敗を……」


起き上がってみると急な動きに耐えられず目眩が襲いかかる。


「あっ」


これダメだわ、堪らずまたベッドに横たわる。少なくとも日も落ちてるみたいだし明日まではベッドから出れなさそうね……

するとドタドタと廊下を駆ける音がしたと思えば乱暴に扉を開けてお父様とお母様がベッドに駆け寄ってきた。


「あぁ、無事でよかった!!起きなければどうしようと心配したんだよ」


「すみませんお父様……つい初めての魔法で興奮してしまいまして加減を誤ってしまいました」


走ってきた音が脳内でガンガンと響いてるがこれも私がアホなことしなければならなかった事なのだから罰として甘んじて受け入れるしかありませんね。


「えぇ、私達は怒ってないから今日はゆっくり休みなさい、私の可愛いレーナ」


お母様に頭を撫でられて優しく囁かれる。痛む頭が少し楽になり急に瞼が重くなってゆく。


「ありがとうございますお母様、それでは、おやすみなさい……」


あれ……どうしてお母様は何故か可哀想なものを見る目をしてるの?




「眠ったみたいね」


「あぁ、君の水魔法の癒しの力のお陰だよ」


レーナが眠った後、マクラグレン家当主のアダム=マクラグレンとその妻ミラは書斎にて魔法学の家庭教師をしているネムとの三人で沈痛な面持ちでソファで話している。


「重ねて尋ねますが本当に家系に闇の属性の方はおらっしゃらないのですか?」


「えぇ、血縁関係が広いので断定は出来ませんが家系図を見返しても闇属性の血を引いた者は……」


ミラが躊躇いがちに答える。それを聞いてネムは貴族の前であるにもかかわらず爪を噛む。だがこの部屋にはそれを咎める者はいない、その程度些事として捨てられる程の緊急事態が起きているからだ。


「本来なら魔法属性は遺伝です。そして奥様は水、旦那様は風でいらっしゃり祖父母も遠縁の親戚にも闇はいない、それにレーナお嬢様には水と風の属性は欠片も無かった。となるとやはり……」


「そんな訳ないでしょう!」


ミラが叫ぶ、ここで考えられるのはレーナを産んだ母であるミラの不倫である。そうであれば闇属性の者と交わった可能性が欠片でも出てくるのだ。


「すまないが私は妻を信じているからね、それ以上はよして貰えるかな?」


「貴方……」


今まで沈黙を守っていたアダムが口を開く。ミラは頬を染めるが今はそんな状況ではないと切り替える。


「出過ぎた真似をしましたね。ではそれはないという事で進めるのならば状況はさらに酷くなります。幼い頃にに入られたか魅入られた可能性が出てくる」


そうネムが言うと部屋の空気がまるで冬のように冷たくなる。それはアダムもミラも最も恐れていた答えだからだ。


「でもあの子は本当に家の子よ……だってさっき話した時も、ねぇ……?」


アダムを見ながらミラは青白い顔で尋ねる。アダムは優しく微笑みそうだねと頷きネムの顔を見て話を続けるよう促す


「もし入られたのならその存在が悪意をも持ってレーナ嬢に入り込んだのか、自我が生まれる前に入ってしまい身体の主導権を握った状態なのかは分かりかねます。ですからレーナ嬢から目を離さいようお願いします。もしボロを出したのならその時は……御覚悟を」


そう言い残しネムは荷物を持ち書斎を去る。二人残された部屋でミラの啜り泣く音だけが響く。


「ミラ……」


アダムが肩を抱くとアダムにもたれかかり悲痛な声で叫ぶ。


「私は……自分の子供を疑いの目を向けてこれから接しなければならないの?どうして、どうしてなのよ!」


「大丈夫、きっと大丈夫だよ……」


アダムには無意味と知っていても軽い慰めの言葉をかけることしか出来なかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

転生したからといって何かする訳ではありません!! 千燈 @sentajan

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ