第2話

 「それでは魔力を感じてみましょうと言いたい所ですがまずは座学です。学ぶべき事を学ばずに事を行うと取り返しの付かない失敗をするものですから」


 そうして私と先生は向かい合った状態で机を挟み椅子に座る。あっ、この椅子ふかふかだ。これが配置的に悪いことして先生との面談中みたいなシュチュエーションじゃなかったら寝てたわね。だって前を見ると先生が眼鏡越しに私を殺そうとするかのような目付きで見てるんですもの、おちおち寝ていられません。


 「魔力とは火、水、風、土の四つの元素と光とそれによって生じる影、つまり闇の相反する2つの属性からなります」


 そっか、この時代的にはまだ四元素なのか。これがもし現代だったら百十八属性とかになってるのかしら。いえ、カルシウム属性とか訳わかんないわ。


 「聞いておりますか?」


 「はっ、はい!」


 以外とこのオバサン目ざといわね、これだから家庭教師は対面授業の悪い所はサボれないことって昔から言うもの。


 「それでは続けます。魔法を発動させるには魔力が必要です、分かりますね?」


 あっ、そんな所から教えられるのね。まぁ今まで全く魔法に触れた事すらない小娘相手だからしょうがないのかしら。コクリと頷くとそれは結構と眼鏡を一度クイッと持ち上げ光らせてから話を続けた。


 というか私もいつかやってみたいわあんな綺麗な眼鏡クイッ。でもあれって現実でやると嫌われそうよね、実際ちょっとムカついたし、そう!若干禿げてる上司がやってイラッとするイメージが強いのよねアレ。


 「そして魔力を使う目的と目標をイメージ出来ないと魔法は発動出来ませんそれを補うために詠唱があります。更に魔法には位階があり現象として起こすのが難しい物ほど位階が高くなります。闇属性で例えると煙幕を起こすような魔法は簡単ですが、精神に干渉する様な魔法は難易度が高く位階も一から五まである中の四位階の魔法となります。それは煙幕は火から出る煙と簡単に想像できますが精神を脳内で形にする事は非常に難しいためです」


 なるほど……結局はイメージという訳ね、確かに相手の精神に干渉するっていうのは数々のアニメを見てきた私でも難しいわ。


 「まぁいつまでも話していても仕方がないですし多少なれば触れるというのもよい経験になるでしょう。さぁ外に出て少し試してみましょうか」


 そう言って立ち上がり私にも着いてくるよう促す。おっ、机上論だけが全ての面倒な人かと思っていたけれど意外と話が分かりそうね貴方。



 そうして所変わって庭園へ、家は伯爵家のため中々に広い庭を所有している。まぁ貴族階級でも無ければ家庭教師なんか呼べないわよね。


 「まずは魔力を感じる事から始めましょうか、魔力にしても私達人間の身体にしても自然の産物です。風のさざめき、草の匂い、水の流れる音、今貴女が立っている地面の感触、そして暖かく降り注ぐ光とそれを受ける私達によって生まれる冷たい影、それを感覚で味わうのです。そして自分の中にあるモノを身体の内から外へゆっくりと放出してみなさい」


 えっと、よく分からないけどとりあえずやってみようかしら。大体どんな作品でも身体の中から捻り出す感じで出してるからそれと同じ感じでいいわよね。


 「ほう……」


 そんな意味ありげに呟くのやめてくださらない!目をつぶってるからどうなってるのか分からないのですけど!


 「えぇ、結構です。よく出来ていましたよ」


 そう言われて身体から力を抜く。


 「あれっ?」


 上手くバランスを取れずによろけてしまった。何故か運動をしていたわけでもないのに疲労感を感じるわ。


 「貴女が今感じている感覚こそ魔力を消費した感覚なのです。いいですか、その感覚は身体の危険信号ですから必ず無理をして魔法を行使する事のないように」


 「わかりました」


 へぇ、意外と疲れるものなのね。


 「それでは私は旦那様に報告に向かいますのでお嬢様は身体を休めてあげてくださいな」


 そう言うとネム先生は屋敷に戻って行った。これは自由時間というやつね、丁度木陰もあるし昼寝とはいきませんが少し横になっても怒られないでしょう。


 「よっこいせっと」


 木の幹に背中を預け全身を弛緩させる。ふぅ……風が気持ちいいわ。


 「そうだ、少し試したいことがあったのよね」


 魔力を集めるコツはさっきで掴んだし後はイメージよね、私がやりたいのは黒い炎を出すこと。よくあるダークなんたらというやつだ。何故かって?勿論ロマンに決まってるじゃない、だから黒い炎を想像して……


 「いでよ!……まぁそんな上手くいく訳ないわよね」


 案の定失敗ね、黒いオーラのような物がモヤモヤっと出ただけでイメージとは程遠い物しか出来なかった。でもそれも想定内よ、ここからが本番なんだから。


 多分闇の炎のイメージというかそれががしっかりしてないのよね、だから炎に意味を付け加えなきゃいけないと思うの、炎といえば有機物の燃焼よね、だから本当にざっくり言ってしまえば命の消費になるのかしら。だから……


 「これでどうよ!」


 おおっ、出た!手元にはユラユラと揺らめく黒い炎が……でも燃費悪いわね、熱くないのとかは予想通りなんだけどガンガン魔力吸われてるわこれ。仮にこの炎の属性を消費だとすると人や魔物といった生物に当たると生命力を吸うのでしょうけどこの待機させてる状態だと私の魔力を永遠と吸うってことになるのね。


 「あ……れ?」


 なんだろう、目がクラクラする。何で?


 「あっ」


 手元を見ると黒い炎が、そういえば、消すの忘れてたわ。そんなアホな失敗を最後に私の意識はゆっくりと闇の中に落ちていった。

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