AFTER2 『  』


 俺、上星龍之介(かみほしりゅうのすけ)は今日。

 一世一代の大勝負を迎える。


「上星さん見てください! イルミネーションが綺麗ですよ!」


 恋する女の子の笑顔のように、キラキラと輝くイルミネーションにはしゃぐ白幡さん。

 ……なんて天使なんだこの子は。



 ――そう、俺は今日、白幡さんに告白する!



 高3のクリスマス。

 白幡さんは推薦で大学への進学が決まっていた。


 そのお祝いとして、今日白幡さんをイルミネーションに誘った。

 実は受験勉強や進路のことで、あの日以来一度も出かけることができていなかったのだ。


 ひたすら耐え続ける日々……!

 でもようやく解放された!


「それにしても上星さん、受験勉強大丈夫なんですか?」


「うっ……それを言われると耳が痛いよ白幡さん……」


 ……俺の進学、まだ決まってない。

 だ、だけど、白幡さんは終わったんだしいいだろ!


「まぁ息抜きも大事だろ⁈」


「……そ、そうですね! じゃあ楽しみましょう!」


「おう!」


 目をキラキラと輝かせる白幡さんの後について行く。

 あの時の涙とは程遠い、本当に楽しそうな笑顔だった。


「(よかった……)」


 俺はこの子の、偽りない笑顔が好きなんだ。


 それが見れただけでも……って、何逃げようとしてるんだ俺!

 俺は告白するんだろ? そのために、今まで準備してきたんだろ?


 そうだ。

 不慣れながらメールアドレスを聞いて、ぎこちないメッセージを送って。

 学校で不格好だったが話しかけもして。


 そしてイルミネーションに誘えるほどの関係を築いたのだ。

 

「(大丈夫だ。俺ならできる)」


 そう自分に言い聞かせる。

 尊敬する松岡〇造さん! 俺に力を……!


 ――やればできる!


 あざす!


「上星さん? 行きますよ?」


「あっ、お、おう!」


 自分と話しすぎてしまった。

 

 俺は反省をしながら、白幡さんの横に並んだ。





   ***





 ――それから、二時間が経った。


「すごく綺麗でしたね!」


「そ、そうダネ……」


 ――俺、未だに告白できてません!


 何やってんだ俺チキン俺!

 いくらでも告白のチャンスがあったくせに、全部すかしてんじゃねぇよ!


 まさか自分がここまでチキン野郎だとは思わなかった。

 ……まぁ、女子と付き合ったことなんて一度もないんだけどね。


「そろそろ帰りますか?」


「えっ、いや……」


 ここで終わっていいのか?

 もしかしたら白幡さんと出かけられるのは、今日が最後なのかもしれないんだぞ?


 ……ラストチャンスだと思え、俺ッ!


「さ、最後に……そうだ、観覧車に乗らない?」


 ふと視界に入った観覧車。

 それを指さす。


「いいですよ! 上からこのイルミネーション、見てみたいですし!」


「そっか! じゃあいこっか!」


「はい!」


 ……やっぱり天使やこの子は。





「わぁーすごい綺麗ですよ上星さん!」


「ホントダネ」


 緊張のあまり片言になる。

 なんか変な汗出てる気がする……。


「……あの、上星さん?」


「ん?」


 正面にちょこんと座る白幡さんが、俺を真っすぐに見つめてくる。

 その瞳には、歪な笑みを浮かべる俺が映っていた。


「……何か悩み事でもあるんですか?」


「い、いや! そういうわけじゃないんだ! ほんとに……」


 白幡さんを心配させるなんて、男としてダメだろ俺!


 

「あの……私でよければお話、聞きますよ?」



 自信なさげにそう言う白幡さん。

 そんな白幡さんがこの上なく愛おしくて、どんなものよりも綺麗だと思った。


 自然と固まる決意。


「い、いや私が的確なアドバイスとかはできないと思うんですけど……聞くことくらいはできるかなぁと思って……」


 ――やっぱり白幡さんは優しい。


 そんな君に、俺の傍にずっと一緒にいて欲しいと思うから。


 俺は無意識のうちに、白幡さんの手を取っていた。


「か、上星さん⁈」


 冷たい手。

 俺の温もりを全部渡す気持ちで、包み込む。


 小さな手だ。


「白幡さん……」


「…………」


 セリフとかたくさん考えてきたけど、もういいや。

 気持ちが伝われば、それでいいや――





「あなたのことが好きです! 俺と付き合ってください!」





 ちょうと観覧車が頂上に達した。


 白幡さんはイルミネーションの光で輝きながら、宝石のように輝く瞳から一筋の涙を落した。

 

 そして何かを噛みしめるみたいに、



「はい!」



 この時の君の笑顔を、俺は一生忘れないだろうと、確かに思った。

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幼馴染に一万回フラれたので諦めたら急にモテ始めた 本町かまくら @mutukiiiti14

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