1-4 能力獲得

怒涛の三日間が過ぎ、村も屋敷も俺自身も落ち着きを取り戻した。

呑みすぎたせいでさすがに翌日はダウン気味だったが、翌々日ともなればそんなことは言ってられない。


朝一は日課でもある屋敷隣の粟嶋神社にお参りをして朝食にした、やっぱ多恵さんの味噌汁は美味いね。


代替わりの儀までもう少しだが、確認しておきたいことがある。

「代替わり後に訪れましょう」とは言われていたが、俺は異世界がどうなってるのかが、すご~く気になってる。


ここはイタズラがばれた時に使う悪ガキの奥儀「ついついやってしまったんです」「悪気はなかったんです」をやるしかない、「知らなかった」は今回使えないしな。




何故に我が家でコソコソしなきゃならない? そう思いつつも最奥の部屋の襖から中に入った俺は、不思議な感じの通路の中に居た。

先に進むにつれ、身体が揺れる感覚がある。


周りを見ながら進んでいるとその感覚がふっと消えた、薄っすらと緑の光が照らすここはちょっとした洞窟の中だった。


ピロリン。ピロリン。ピロリロリ~ン。ピロリロリ~ン。ピロリン。

洞窟の中に入った途端、いきなり頭の中に異音が響き渡った。


もう異世界ってことだろうか、JR駅に列車が入ってきた感じだな。

好奇心がムクムクと盛り上がってくるじゃないか、そんな心とは裏腹にソロリソロリ進んでいく。


仕方ないだろ、ゴブリンとか出てきたらどうするんだよ。

何、「通路だろうから安全なんじゃないか?」、先に言ってくれよ。

危険性に少し蓋ができたところで洞窟はゆっくりと右へと曲がっていく。




「ふふふ、流石だ色惚け糞ジジイよ。褒めて遣わす!」


通路はがっしりとした鉄柵で行き止まりとなっていた。

ご丁寧に貼り付けられている紙には、「代替わりの儀終了まで通行を禁ず 千頭宗一郎」と記してある。


俺に気づいたのか、鉄柵の向こうから二人の鎧に身を包んだ者が現れた。

定番ならヨーロッパ風の人とか騎士風なんだが、MHK大河ドラマの足軽のような恰好だ。

本当に異世界かここ、いやいや糞ジジイの筆もあったな。


「封鎖中と知ってか? 誰だ、見ない顔だが」

「千頭藤四郎と申しますが…」


二人は顔を見合わせ、

「誠で?」

と問いかけるので、コクリと頷いた。


警備兵らしき二人はピシッと槍を縦に構え、


「失礼しました。我ら宗円家の警備係です。そちらにもありますよう、大殿の命で只今通行ができなくなっておりまして、その…」

「ええ、大丈夫ですよ。どうせあと二、三日して代替わりを済ませれば開けてもらえるでしょう」

「はい、そう聞いております」

「じゃあ、またその時に、ありがとう」


俺は来た方へとくるりと向き直り、うなだれながら進んだ。

すると頭がふわっと、そうふわっとした柔らかいものに触れた気がした。


後ろで見ていた警備係の二人は一気に目を逸らしたという。


「ん、このつつましい柔らかさは?」


俺が顔を上げる前にアンの声が聞こえた気がした。

「若様、こちらで何をされておいでですか…」

「知らなかったんですぅ」


「ついつい」「悪気はなかった」「知らなかった」と準備していた言い訳は、当然ながら洞窟を探索することに対してだった。

そして付けなかった主語に、追及のメスを入れるのは女性の得意技でもある。


「な に を 知らなかったのですか?」

「いや、その、あの」


ここで動揺せずに切り返せるなら俺は既にDTではなかっただろう。

こうなれば女性は勝手に主語を悪い方に固定する、それはもう下手をすると一生消えない…。


「私の胸が小さいと? それは豊満カタリーナと比べての話ですか? それとも東京で失恋した隠れ巨乳彼女さんと比べてのお話でしょうか?」


アンが言った後にしまったという顔をした。


「ちょっと待て、隠れ巨乳だったのか? 違う! 何故それを知っている、俺は村の誰にも言ってないぞ」

「とにかく、今は通行は不可です。戻りましょう!」

「いや、ちょっと」

「戻りますよ! 早く!」

「はい…」


警備係の二人はこの件について、「ナニモ見テマセン、ナニモ聞イテマセン」を選択してくれたらしい。




特にアンに怒られた訳ではないが、彼女のジト目にやりきれなくなった頃に専務の哲郎さんが来た。


「若、転移門をくぐられたとか」

「すまん、転移門かは知らんが向こうの門番が居る鉄柵までは行った」

「まぁ、代替わりの儀が終われば挨拶に行きますのでお待ちください。ただあちらの国内でも異世界の通路は極秘ですので、そこはお間違えくださいますな」

「分かった。少し落ち着きがなかった、反省してる」


一安心したのか、哲郎さんはアンに声をかけた。


「転移門通過の能力獲得の話はしたのか」

「いえ、まだ説明しておりませんでした」

「そうだったか。若、襖の奥を進みますと途中でいきなり洞窟に変わった箇所があったと思います」

「そこでピロピロと頭の中で音が響いたんだが、大丈夫かな」


心配そうな表情をした俺に、哲郎さんは優しげに二度大きく頷いた。


「ええ、ご安心ください。転移門をくぐる際には個人毎に能力が発現します。言語理解といわれる能力は間違いなくあるでしょう」

「哲郎さんやアンもその能力とやらを持ってるのか?」

「勿論です。体感で感じたり薄っすらと頭が理解する感じとなります。ただ宗一郎様のように鑑定系の能力があれば別ですが」


なるほど、それでさっきから頭の中で引っかかってる感じがしたのか。

ラノベとかだと【鑑定】とかって、おおっと見えた。


 名 前  秦泉寺哲郎

 種 族  人間

 帰 属  千頭宗一郎 千頭家筆頭家老

  ★固有能力

   【部下掌握】

  ★特殊能力

   【身体強化】

  ★常用能力

   【言語理解】

  ★習得能力

   【刀術】【槍術】【伐採】【算術】


「哲郎さんは、有効な能力持ってるんだな」

「な、若! 見えるのですか?」

「ああ見えてると思う。これはかなりの個人情報だな、言わないよ」

「いや云うて下され。宗一郎様がお作りになった鑑定の宝玉がございますので、若の力を確認したく思います」


糞ジジイすげえな、本当に大賢者だったか。

口が滑ったか、判断に困るな。

どうするかと一瞬の逡巡の後、俺は口を開いた。


「能力は言語理解を入れて六つ、【算術】【刀術】【槍術】【伐採】あとは特殊な能力が一つだな」


哲郎さんがアンを見て頷いてる。


「では、私はいかがでしょう」


 名 前  アンリエッタ=パールマ

 種 族  古エルフ族

 帰 属  千頭宗一郎 千頭家秘書

  ★固有能力

   【魔弓生成】

  ★特殊能力

   【魔術効果上昇】

  ★常用能力

   【言語理解】【認識阻害】

   【魔法】火、水、風、土

  ★習得能力

   【剣術】【弓術】


「アンも言語理解を入れて六つだな。【剣術】【弓術】【魔法】【認識阻害】と特殊な能力が一つ。こちらの世界では認識阻害で只の外人で通してるってことか」


驚きつつも安堵する二人に、

「ちなみに俺も六つだ」


「どのような、いえ言わなくてもよろしですがよければ」

とアンに問われたので即答えた。

「【言語理解】【判別】【山歩き】【読書】と後は言えないな」


 名 前  千頭藤四郎

 種 族  人間

 帰 属  千頭家嫡男 粟嶋神社の氏子

 器 量  ?????

 その他  少名毘古那神に認められし者

 能 力

  ★固有能力

   【色即是空】

  ★特殊能力

   【創造】【妖力制御】

   【禁厭】

  ★常用能力

   【言語理解】【物質理解】【鑑定】

  ★習得能力

   【山歩き】


よく分からんな、少しはチートを貰えたってことだろうか。


【鑑定】を【判別】と言ったのは、ちょっとした保険だ。

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