会うたびにハグしてくる可憐な女の子は匂いフェチの変態だった
チドリ正明
短編 会うたびにハグしてくる可憐な女の子は匂いフェチの変態だった
「せんぱーい!」
教室に向かうため憂鬱な気分で廊下を歩いていると、何度聞いたかわからない甘ったるい声が僕の後ろから聞こえてきた。
甘ったる声の主は一応知ってるやつなのだが『先輩』というのは、この世にたくさんいるので僕だとは限らない。よって気にすることなく廊下を歩き続けた。
「せんぱい、おはようございます!酷いです!なんで無視するんですか!?」
テヘペロ。この子が言う先輩って僕のことでした。
「すまんすまん、イヤホンしてたから聞こえなかったよ。」
君に僕の嘘を見破れるかな
「バレバレの嘘つかないでください!それより、今日も朝イチのいつものいいですか?」
嘘はすぐにバレたあげく、そこから話が広がることもなかった。
それはひとまず置いといて、朝イチのいつものやつというのは、簡単に言うとハグである。彼女は僕のなにを気に入ったのか知らないが出会った次の日から今日まで約1ヶ月の間、毎日ギュッと強めのハグをして頭を擦り付けてくる。
ちなみに、なに?犬なの?そうなの?3回まわってワン!って言ったら怒られたことがあるので彼女は犬ではないことが、つい先日証明された。
「まあいいよ。けど場所を変えよう。ここだと人が多すぎる。」
なんの目的かは知らないが、可愛い女の子に抱きつかれるなら役得である。
階段下のスペースに移動した僕たちは、なんだかいけない気分と雰囲気になっていたが、それもいつものことである。結局するのはあっちからの一方的なハグだけである。
「じゃあ、いきますよ?」
どうぞ、と心の中で答え頷いた瞬間に彼女は胸元に顔を埋めてきた。
彼女の身長は175cmの僕よりも20cmほど低いので僕の顎の下に彼女の頭のてっぺんがくるくらいである。
朝は2人になれる時間が短いので、彼女はいつもガバッと一気に抱きついてくる。
「はぁぁ、いい匂いですぅ。」
なんて言ったかわからないが、彼女も喜んでくれているのでこれはwinwinの関係だと自分に言い聞かせる。
こんなところを誰かに見られた日には、真っ先に僕が疑われて検挙されてしまうだろう。
「よし、もう時間だ。授業始まるから戻るぞ?」
チラリと腕時計を見て彼女にそう告げる。
「もうですか?あっという間でした。」
名残惜しそうに僕から離れる彼女を見て聞いてみた。
「もしかして、僕のこと好きだったりする?」
「いえ、それはない…と思います…」
後半が聞こえなかったが、彼女は僕のことが別に好きではないらしい。
「この際、聞いてみるけど、どうしてハグしたがるの?」
「え、それは、その…」
何か言えない事情でもあるのか、なんにしろ僕らはハグだけの関係ということが明らかになった。
彼女は戸惑いながらも徐に口を開いた。
「ほ、放課後に教えるので、待ってもらえませんか?心の準備が必要なので。」
「わかったよ。じゃあ放課後にね。」
言い忘れていたが、僕らは生徒会に所属している。僕も彼女も学年は違えど生徒会書記なので一緒にいることも多い。
今日は生徒会が休みなので、放課後に生徒会室で話しをすることになった。
そうこうしているうちに時間がギリギリだったので、急いで教室に戻った。
☆ ☆ ☆
1時限目になんとか間に合ったが、さっきのことがあり授業に集中できないでいた。
いったい彼女は僕になにを伝えたいのだろう。もしかして僕のことが好き、はないな。さっきないって言ってたし。
そんな妄想を1日中張り巡らせながら時間は流れていき、気がついたら放課後になっていた。
支度を済ませ生徒会室に向かう途中、彼女を見つけたので生徒会室へ一緒に向かうとこにした。
なにやら神妙な面持ちの彼女が生徒会室に到着するまで口を開くことはなく、2人の間には今までに感じたことのない空気が流れていた。
生徒会室には入り、鍵を閉め、彼女の対面に座り、目を見て話を聞く。
「君のそんな顔ははじめてみたよ。なにか悩んでいることや困っていることがあればなんでも言ってくれ。僕にできることなら協力するよ。」
いつもと違う彼女を見た僕は、らしくないセリフを言ってしまったが、後悔はしていない。彼女は大切な仲間だから。
「ほんとですか?実はせんぱいにしかできないことなんです。」
僕だけにしかできないこと?
「とりあえず、ワイシャツと靴下を脱いでください。話はそれからです。」
戸惑いながらもワイシャツと靴下を脱いだ僕の見た目はタンクトップにスラックス、裸足の変態に成り下がっていた。
「それをこっちに渡してください。はやく!!」
わ、渡す?迷っていると彼女からゲキが飛んだ。初めてこんな大きい声聞いたよ。
僕が急いで彼女に渡すと、なんと彼女は渡されたワイシャツと靴下を一緒にまとめて顔へ近づけた。
「おい!なにしてるんだよ!頭おかしくなったのか!?」
彼女は聞こえていないのか、ワイシャツと靴下に顔を0距離で密着させ、深呼吸する始末である。
これはヤバいと思った僕は彼女からワイシャツと靴下を力尽くで取り上げた。
「どうしたんだよ!?誰かに命令でもされているのか?!」
驚いたことに彼女は恍惚とした表情で僕のことをぼんやりと見ていた。
「せんぱい、これでわかりましたか?わたしはへんたいなんです。せんぱいのにおいをかぐとこうふんしちゃって、なにもかんがえられなくなるんです。」
あぁ…やっとわかったよ。こいつは匂いフェチの変態女だったんだ。僕が犬って言ったのもあながち間違えじゃなかったのかもしれない。真剣に悩みを聞こうとしてた俺の期待を返せ!さっきの言葉は前言撤回する。
めちゃくちゃ後悔してます。
☆ ☆ ☆
「そろそろ落ち着いたか?」
それから僕は無事にワイシャツと靴下を取り返したが、まだ話は終わっていない。彼女に聞きたいことはたくさんあった。
「君は匂いフェチの変態で間違い無いんだな?」
確信めいた言い方で彼女に問いただす。
「はい。わたしはせんぱいの匂いが好きです!体育終わりの汗の匂いも、一緒に仕事してる時の疲れ切った匂いも!全部全部大好きです!!やっと言えましたぁ!ずっと言いたかったんですけど、ドン引きされるのが怖くて怖くて!」
ふぅー、と仕事をやり終えたかのような彼女は、なんだか嬉しそうだった。
あと、しっかりドン引きしてるからね?
「そ、そうか。まあ、これからも頑張ってくれ。じゃあ僕はこれで失礼するよ。」
秘儀ナチュラルまたね!である。
これまでの話をすっ飛ばして自然と帰る高等テクニック。これで帰れなかったことはない!
「まだ話は終わってませんよ?せんぱい♡」
僕の秘儀は彼女の前では無力でした。
「なんだ。まだあるのか?」
「はい。わたし、自分が匂いフェチのへんたいだってことはわかっているんです。でも仲の良い友達にも家族にもいえなくて、そんな時にせんぱいに出会えて、わたしの好きな匂いで落ち着いて楽しくて。こうしてる今も今日1日履いて蒸れたパンツが欲しいです」
途中までの良い感じの感動を返せ変態。
「パンツの件は置いといて、まあ僕が力になれてよかったよ。そして、君は僕の匂いだけが好きでハグしたり一緒にいたりしてくれたってことかな?」
少し意地悪な言い方になってしまった。僕だって彼女が匂いフェチの変態だったからって彼女のことが嫌いなわけじゃない。むしろ出会ってから1ヶ月間は今までにないくらい異性に興味を持ったし、一緒にいる時間が好きだった。だからこそ彼女の意思を確認したかった。
「はい。最初の頃はそうでした。せんぱいのいい匂いだけが目当てでした。けど、少しずつ気づいたんです。せんばいにハグすると胸がドキドキするし、うまくいえないんですけど、わたしこんな感情初めてで。おかしいですかね…」
「意地悪な質問をしてごめんね。君の意思を確認したくて。実は僕も君と同じでハグされてた時はずっとドキドキしてたし、これが恋って言うのかな、こんな感情は初めてだよ。」
僕も素直な感情をストレートに彼女に伝えた。それを聞いた彼女はうつむいて涙を流していた。
「嬉しいです!せんぱい!」
目を腫らして、涙を流し、声を震わせながらもいつもの元気な彼女がそう言った。
いつもは彼女からハグをしていたけど、僕は彼女にハグなんかしたことないけど、彼女が僕にするように優しく、それでいて力強く彼女のことを抱きしめた。
「あっ、せんぱい…。」
彼女も僕の背中に手を回し、互いにありのままの感情を共有した。
僕は彼女を1度僕から離し、肩に手を添えた。そして、僕と彼女の想いが重なった今しか言えない言葉を口にした。
「君は匂いフェチで変態だけど、素直で元気で明るくて、ハグをしてこんなに落ち着く人って他にいないと思う。今日でやっと自分の感情に気づくことができました。
好きです。付き合ってください。」
自分の気持ちに嘘はないことを彼女に知ってほしくて、僕は彼女の目を見てはっきりと愛を伝えた。
「こちらこそ、よろしくお願いします。」
涙声で僕の気持ちに応えてくれた彼女の言葉に僕は喜びを隠しきれずに、彼女ことを強く愛おしさをぶつけるように時間を忘れてギュッと抱きしめ続けた。
会うたびにハグしてくる可憐な女の子は匂いフェチの変態だった チドリ正明 @cheweapon
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