第4話初心者冒険者、初戦

 猪の危険な魔獣|岩猪《ロック・ボア》に、狩人の少女が襲われていた。


「ああ、そうだったな。“助ける”に決まっているな!」


 初心者冒険者として、ここは見過ごす訳にはいかない。

 茂みを飛び出し、《岩猪ロック・ボア》の前に立ちはだかる。


「えっ⁉」


 少女が驚いている。山賊だと思われているのだろう。

 だが今は詳しく説明している、暇はない。


『ブルルォオオオオ』


 突進してきた《岩猪ロック・ボア》が、目の前に迫っていたのだ。


「ふう……《【斬撃スラッシュ】!》


 初級の剣術スキルを発動。

 そのまま長剣で《岩猪ロック・ボア》を斬りつける。


 ザッ、シュバーーーン!


 斬撃は直撃。

岩猪ロック・ボア》を真っ二つに切断する。


 よし。

 同時に周囲の気配を索敵、他に危険はないな。

 初心者冒険者的には、『一安心』といったところか。


「た、助けてくれて、本当にありがとうございます。旅の方?」


 少女が感謝の言葉を、伝えてきた。

 少しだけオレに怯えている様子だ。

 誤解を解かないと。


「オレは野盗ではない。偶然、通りがかっただけだ。大した相手はなかったからな」


「えっ……《岩猪ロック・ボア》を、“大したことがない”ですか⁉」


 オレの言葉に、少女は驚いた表情になる。

 どうやら《岩猪ロック・ボア》を一撃で倒したことに、とても驚いた様子だ。


「《岩猪ロック・ボア》は村の腕利きの狩人でも、とても危険な獣です」


「《岩猪ロック・ボア》が危険な魔獣だと? ああ、そうだったのか」


 まだ駆け出し冒険者として、力の加減が出来ていなかったのだろう。

 次からは気を付けることにしよう。


「ところで、この辺にスクルドという村はないか? そこに行きたい」


 ここで狩りをしてということは、近隣の地理にも詳しいのであろう。

 自分が探している村のことを、少女に訪ねてみる。


「えっ、スクルドですか⁉ それはウチの村です!」


「なんだと、そうだったのか」


 運の良いことに、少女の住む村がスクルドだったのだ。

 きっと助けたことも、天運だったのかもしれない。


「すまないが案内してくれないか? ある人物に手紙を渡したい」


「はい、もちろんです! 案内でよければ! あっ、その前に、少しお待ちください。《岩猪ロック・ボア》を解体したいです」


「解体? まさか魔獣を食料にするのか?」


 毒がない魔獣の肉は、食料としても食べることも可能。

 だが、わざわざ《岩猪ロック・ボア》を食おうとする者は、それほど多くはいない。


「はい。恥ずかしながら。村は今、食糧難でして……こんな貴重な食料は、捨ててはいけません」


「なるほど、そういうことか」


 よく見ると少女は、かなりやせ細っていた。

 状況的に魔獣を食わないといけないほど、よほど村は困窮しているのだろう。


「とりあえず解体して、後で村から人手を呼んできます。何しろ、この大きさなので」


「それならオレも運ぶのを、手伝ってやる。少し離れていろ……【収納しゅうのう】!」


 ビューン!


 スキルを発動。

岩猪ロック・ボア》の死体を丸ごと、自分の収納の魔法の中に入れる。


【収納】の中は重さを感じず、死体が腐ることがない。

 このまま設備のある村で解体した方が、効率的だろう。


「えっ……《岩猪ロック・ボア》の死体が消えた……ですかか?」


 少女はとても驚いた表情をしている。

 もしかしたら【収納】が珍しかったのだろうか。


「【収納】のスキルを初めて見たのか? 初心者冒険者でも使える簡単なモノだが?」


「えっ……そうなんですか? ウチの村にも一応、冒険者はいますが、こんな凄いスキルは初めて見ました」


 なるほど、そういうことか。

 収納をオレは十歳の時に会得したから、それほど難しいスキルではないはず。

 あまり気にしないでおこう。


「それでは案内を頼んでもいいか……」

「リンシアです。私の名は」


「そうか、リンシアか。オレはザガン。駆け出しで、流れの冒険者だ。それでは案内を頼む」


「ザガン様ですか……素敵な名前ですね。 あっ! 村は、こっちです、ザガン様!」


 狩人の少女リンシアが先導してくれる。

 オレはその後を付いていく。


(ん? リンシアの、この身のこなしは……なかなかの素質だな)


 後を付いてきながら、心の中で感心する。

 獣の道を進む彼女の素質は、かなり高いモノ。

 おそらく幼い時から、狩人として野山を駆けてきたのだろう。


(ちゃんと技術を教える者がいたら、冒険者としても頭角を現しそうだな、これだと)


 今までリンシアは自己流で、狩りをしてきたのだろう。

 だから技術的に荒い部分がある。

 だが《狩人戦士》としての素質は、間違いなく高い。


 ――――そんな事を思いながら、獣道を三十分ほど駆けていく。


「ザガン様、見えました。あれがスクルドの村です」


「ほう、あれか」


 小高い森を抜けた視界の先に、小さな村があった。

 山岳の盆地に湖があり、その湖畔に広がる集落。

 よくある辺境の規模の村だ。


「こちらが村の入り口です、ザガン様」


 彼女の案内で、村に近づいていく。

 村の中の様子が見えてきた。


(ん? この村は……)


 見えてきた村の様子に、オレは思わず眉をひそめる。


(困窮……どころの状態ではないな。このままだと、流行り病で全滅してしまうぞ、ここは)


 目的の村スクルドは異常な程に、困窮し寂れていた。


 ひと言で説明するな……“廃村一歩手前”の危険な状態だったのだ。


(仕方がないな……)


こうして世界ランク1位の最強な冒険者による、新たな冒険が幕を開けるのであった。

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世界ランク1位の冒険者、初心者パーティーに紛れ込み、辺境で第二の人生を満喫する ハーーナ殿下@コミカライズ連載中 @haanadenka

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