第3話 弄ばれる臍

「さて、ちゃんとお臍見せて頂戴。スカートは下げて、上着はめくり上げてね」


カメラを振りながら楽しそうに麗香は命令した。その様子はまるで新しい玩具を買ってもらった子供であった。


恵は悔しげに下唇を噛んだ。(さ、逆らえない…私の秘密がネットに晒されちゃう…そんなことになったら…!)


朧げに蘇る昔の記憶。皆からの罵倒をシャワーの如く浴びた自分。

体がかぁっと熱くなった。


「チンタラしてんじゃないわよ!見せるの?見せないの?」

痺れを切らした麗香が机をバンと叩いた。


恵はビクンと小動物のように跳ね、涙目ながらに「み、見せますっ」と答えてしまった。


カタカタと体を震わせ、上目遣いでこちらを伺う恵に、麗香は激しい嗜虐心を抱いた。


「なら…はやくしなさい。もう次はないわよ」


冷たい目に射抜かれ、恵はもう逃げ場がどこにも無いことを悟ってしまった。観念したように頭を下げ、ゆっくりと上着をまくり上げた。そして残った方の手をスカートに近づけ、親指を縁に掛け、一気に下ろした。


「わぉ…」麗香が感嘆の声を上げる。


恵は自分の腹部が外気に晒されている感覚と、その真ん中…臍部に視線が集中している感覚に悶えていた。


「これは…」麗香が何か言おうとする。


(いやっ!!言わないでぇ!!!)耳を塞ぎたいが、両手を動かすことはできない。恵はただただ羞恥に打ち震えるしかなかった。


「かなり大きいのねぇ、恵さんのオヘソ!!プフッ」


ドクンッと恵の心臓が飛び跳ねた。幼少の頃の"あの気持ち"が蘇る。


「あ…あぁう…い、いわないでぇ…」


否定はできなかった。昔からお臍が大きいこと、その容積をすっぽり埋めてしまう程の肉豆が鎮座していることは認めざるを得なかった。ただ、自分で認めるのと他人に揶揄されるのは全くの別問題である。


「何が言わないで、よ?本当のことじゃない。自分でも分かってるくせに。認めなさい?自分がでっかーいお臍……ううん、で•べ•そ、ってことに」


麗香は恵の反応を楽しそうに眺めながら、追い討ちをかけていく。


「や、やめてぇ…でべ…そじゃない、もん…私は…私は…」


恵はとうとう泣きながら訴え始めた。


「私は…!私のお臍は!あんなみっともないモノなんかじゃない!!」


瞬間、麗香の周りの空気が変わった気がした。


「今…なんて?みっともないモノ?それってどういうこと?」


「だってそうじゃない!!…でべそなんて、醜くて気持ち悪いんだもん!普通はお臍って引っ込んでるんだよ??ヤダよ!飛び出してみっともない格好はぁ……グスッ…」


捲し立てた恵は、しゃくり上げながら俯いた。


「ふーん…」麗香は冷たい視線を恵に向ける。


「なんかムカつくわ貴女。本当はこれくらいで勘弁してあげようと思ってたけど、気が変わった。」

ツカツカと恵に近づく。


「そんなに否定するんなら、分からせてあげるわよ」


その手には、定規が握られていた。




麗香はゆっくりと恵の臍に指を近づけた。臍の左右の縁に指を当て、軽く引っ張る。縦に長い楕円の穴はだらしなく横に伸びきり、ぷっくりと腫れた豆が外に飛び出してくる。


「縦は3センチ、横は1.6センチってところかな?伸縮性に富んでるから値に変動はあるけれど…」


麗香は淡々と恵の臍の計測をしている。


「中々大きいお臍だけど、貴女の場合、重要なのは大きさだけじゃなく…」


豆を指で摘み上げた。


「んぎぃっ!?」


「静かに。プッ…この"お豆"ちゃんよね〜」


麗香は情けなく飛び出た豆を指で弄んだ。


クニックニュッコリュッ


「ん!んぃ!やぁあ…!!」

豆を弄られる度に敏感に反応する恵。彼女は初めて他人に臍を弄られる感覚に戸惑いを隠せなかった。


(な、何ぃ…?これ…お、おへそがジンジン…するっ!なんで??何でぇ…?やだよぉ…なんだかおへそがおかしくなってるよぉ…!!!)


逃げようと思えば逃げられた筈である。恵は拘束されておらず、保健室のドアにも鍵は掛かっていない。しかし、盗撮の脅しと異様な雰囲気と感覚に呑まれ、恵はただただ臍を差し出すしかなかった。


電流を流されている魚のように、恵は時折ビクンッ!ビクンッ!と体を仰け反らせて反応した。あまりに大きく動くので、スカートはずり落ち、下着姿で臍を弄られるというなんとも奇怪な格好となった。


麗香は恵の豆の様子を細やかに報告した。


「豆の形状は、一見すると球状だが、奥の方に向かうにつれて凹凸が目立つわね。それに、臍乳頭…臍の緒の痕だけど、貴女の場合、中央から少し下にずれた所にあるわ。これはぷっくり腫れ上がってるから目立つわ。その臍乳頭を中心に、いち、に、さん………うわ、14つもシワが伸びてる。何て複雑な構造をした臍、失礼!デベソなのかしら。こんなデベソ、見たことないわ」


麗香は大声を上げて笑った。


「ぁうん、ち、ちが…で…でべそ…なんかじゃ……はぁん!!!」


否定したいが、口を開けば出てくるのは嬌声が優先される。ふと目元を下に下ろすと、自分の臍穴から真っ赤な肉片が頭を出し、柔軟に形を変えているのが見えた。


自分でも触ったことなんてなかったのに…


今や完全に麗香の玩具と化した臍肉を見つめながら、恵はされるがままになっていた。


(でべそ…わたしのおへそが…?でべそ…?)


恵は痺れる頭で、ぼんやりと考えていた。


恵が思う出臍、というのは、漫画のキャラのような完全に飛び出してしまったモノであった。


まだ穴に埋まっている点で、自分は違う、普通のお臍だ、と言い聞かせて来た。


しかし、今や穴から引き摺り出された豆は真っ赤に腫れ、半分は露出してしまっている。


(もう…やだよぉ…おへそぉ…お…へそ…へ…そ…)


意識が朦朧としてくる。やがて恵は弱弱しく声を上げた。


「おねがぃ…もう、わたしのぉ…でべそ…でぇ、べ…そぉ…いじめないでぇ……」


恵は薄れゆく意識の中、ぼんやりと思った。



あぁ、私は、「出臍」なんだ。


次の瞬間、グルンと白目を剥き、恵は崩れ落ちた。


「あははは…!何なのこの子?出臍弄られただけで気を失っちゃったわ!」


麗香は指をウェットティッシュで拭きながらカメラを構えた。レンズの先にはもちろん恵の姿があった。


(やっと見つけた…このお臍とこの娘なら、私の欲望を満たしてくれるかもしれない。)


「これからよろしくね、デベソちゃん♡」


麗香は、出臍を突き出すように気絶している恵の醜態を何枚もカメラに納めるのだった。

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