番外編ー幼なじみの宝物

 これは、俺と千夜が初めて会ったときの物語。


「カミリ、そろそろ幼稚園行く時間だぞー」


「はい、父さん」


 生まれてまだ六年しか生きていない俺は、その成長過程の体を立たせ、玄関で俺を呼んでいる父さんの方へと走っていく。


 チリンチリン


 乗っている自転車のベル音が響く。

 父さんの後ろに座っている俺は、横から来る風に好奇心を抱く。


「カミリ、スピード上がるぞ!」


「へっ?」


 フワッ


 自転車は目の前の下り坂を猛スピードで滑り降り、一瞬、浮遊感が俺を襲う。

 無事、俺が通っている幼稚園まで着くと、弁当を片手に持ち、家に帰る父さんに手を振る。


「カミリくん、おはよう!」


「おはようございます!」


 先生と元気な挨拶を交わすと、教室に入り、席に座る。

 弁当を引き出しにしまうと、前のドアから先生が入ってくる。


「皆さん、今日は新しい友達が来てますよー!」


 新しい友達? 俺は先生が何の事を言っているのか見当がつかない。


「おいで!」


 先生がドアの向こうに手招きすると、ゆっくりと教室に入ってくる。


「はい、自己紹介は?」


 先生が耳元で彼の自己紹介を呟くが、彼はもじもじしてて中々口に出さない。


 何か苦手なタイプだな……

 俺はあまりはっきりとしない人はあまり好きでは無い。

 俺の第一印象はこんな感じであったが、数秒後にガラリと変わった。


「僕は徳川千夜、名古屋から引っ越してきました。ところで、この中で一番強いのは誰ですか?」


 ザワザワ


 突然の豹変ぶりに、先生も他の生徒達もおろおろする。

 俺の彼への第二印象は"面白そう"だった。

 俺は一番後ろの席から立ち上がり、彼のところまで歩く。


「俺だ! 徳川カミリ、この学年で一番強いのは俺だ」


 俺は堂々と名乗り出る。

 先生は、なんて大人な子達……と呟きながらも、俺と彼を仲裁する。


「はい! お喋りはお終い! 授業を始めますので、席に着いて下さい。あ、千夜くんは一番前のこの席ですよ」


 俺は自分の席に戻ろうとすると、彼が口を開いた。


「明日の朝7時、校庭で待ってる」


 俺は何も言わず、自分の席へ戻った。

 彼の名前は千夜と言ったか。覚えておく必要がありそうだ。

 それから千夜は一度も俺に近寄らず、俺は家に帰った。


 ■


 次の日の朝。


「父さん、早く早く!」


「何だよ、まだ行く時間じゃねぇだろ」


「約束してんだよ、お願いだよ父さん!」


 分かった、と溜め息をつきながら承諾して貰うと、俺は自転車の後ろのカゴに乗り込み、そのまま父さんの背中を掴んで目を瞑る。


「ちょっと寝るから、おやすみ……」


「おい! マジかよ……」


 昨日の夜の稽古で疲れたのだ。昼は少しでも睡眠を取りたい。


「睡眠時間は三時間あげてるだろ。そんなんじゃ、もっと大きくなった時に困るぞ、ったく……」


 俺はそのまま眠りにつく。

 俺は眠っているとき、ある夢を見た。

 俺はある街にいた。だが、その街には生き物が一切居らず、建物も風化していた。


 一体ここは何処だろう。体は動かず、声も出ない。

 唯一動く首を必死に振り回し、辺りの様子を確認する。


 キラリ


 何かが空で光っている。それは沢山あり、一寸も動かない。

 俺が空を見ていると、いつの間にか夜になる。

 どうやら、光っているのは星のようだ。


 すると突然、空から何かが降ってくる。俺は直感的に理解する。

 あれは星だ!

 俺は沢山の飛んでくる星を見て、死を確信する。

 俺は唯恐怖を感じ、大きく目を瞑った。


「おい、カミリ! 着いたぞ!」


 ああ、そうか。これは夢だったのか。

 俺は寝起きとは思えないくらい目を開き、ゆっくりと自転車から降りる。

 俺が父さんの手作り弁当を持ったのを確認すると、父さんは自転車を漕いで家へ戻っていった。


 俺は教室に弁当を置くと、急いで校庭へ向かう。

 校庭に着くと、千夜がタイヤの遊具に座っていた。


「千夜、俺に何の用?」


「唯の挨拶です。十五代目神剣術士長様」


 俺は千夜の言葉に耳を疑う。


「何故知ってるんだ!」


「僕は徳川家の人だから当然知ってるよ。ところで、用というのはね、僕と勝負して欲しいんだ。唯の挨拶代わりの勝負を」


 千夜はこちらに向かって地面に置いていた棒らしき物を俺に投げる。


「これは新聞紙を丸めて輪ゴムで止め、棒みたいにした物だよ。僕は、君が長という事に疑問を抱いている。この棒を使って勝負だ!」


 そう言うと千夜は棒を振り上げ、俺に向かってくる。

 勝負は簡単に着いた。

 俺は千夜の攻撃をかわさず、棒を構える。俺は力一杯千夜の棒を叩く。


 パン!


 俺の棒が当たると、千夜は棒から手を離した。


「俺の勝ちだ」


「こんなの、本物の剣だったら飛ばされなかった!」


「でも、今はこの棒での勝負だ」


 千夜は俯くと、震えた声を出す。


「僕は、この日の為に……何度も、何度もっ、練習したのに……」


 俺は千夜の行動に少し焦り、どう対応するのが得策かを考える。


「僕は、ずっと長の座を夢見ていたんだ。でも、実力では見てくれない。唯、血が繋がっているだけで選ばれる。そんなの……おかしいじゃないか!」


 実力でも敵わなかったけどね、と千夜は付け加える。


「千夜、お前はまだ負けてないぜ。人間は死ぬまで負けてないって、俺の父さんが言ってたんだ」


 俺はとびきりの笑顔で千夜を見る。俺の見間違いかもしれないが、千夜が少しだけ笑った気がした。


「カミリ、ついてきて」


「分かった」


 千夜と俺は幼稚園を出ると、道路を走っていく。

 随分と時間が経つと、千夜はようやく泊まった。


「ここって……俺ん家?」


「あれ、言ってなかったっけ。僕はここに引っ越してきたんだ」


 千夜は俺の家を通り過ぎ、その隣の家の前に移動する。

 俺はとても驚き、千夜の方へ向かう。

 千夜の前へ行くと、俺は少し考えてから口を開く。


「ってことはさ、俺達って幼なじみだよな」


 千夜は少しの間考えると、頬を赤らめて首を縦に振った。


「ついてきて」


 俺は家の敷地内に入ると、千夜につられて倉庫に連れていかれた。

 千夜は倉庫の扉を開け、ポケットから小型の懐中電灯を取り出す。


 俺達は倉庫の奥へ進むと、千夜が一つの巻き物を出して来た。

 それを開くと、千夜は口に咥えた懐中電灯で巻き物を照らす。


「これは随分昔に作られた巻き物らしくて、これは僕の宝物なんだ。だから、カミリにも見て欲しくて……」


 その巻き物には絵が描かれていて、その絵の隣に文章が書いてあった。


「すげぇな、これ!」


 俺はその巻き物に歓声を上げると、その絵に違和感を覚える。


「千夜、俺……この絵が夢に出てきた。というか、この中に居たんだ」


 それは、壊れた街に夜空から星が降っている絵だった。


「夢の中でこの絵の中に入ってたの? 何だかややこしいね。でも、それはきっとカミリが僕と出会うのを、感知してたんじゃない?」


「そうだよね、きっと」


 何せ、千夜は俺の初めての幼なじみだ。絶対にそうだったのだろう。

 すると千夜は、何かを決意したようで、真剣な顔で俺を見つめる。


「隣の文章はまだ読めない。ここに入るのはいけない事だから、お父さんやお母さんに聞くことは出来ないけど、もし僕が大きくなって、この文章を読めるようになるまで!」


「僕と……幼なじみで居てくれる?」


「うん、約束だ!」


 千夜とは何だか良い友達、幼なじみになれると思う。

 俺は千夜と笑い合うと、ずっと気になっていたことを言った。


「千夜、幼稚園はどうするんだ?」


「あ、忘れてた」


 俺達は二人仲良く、幼稚園に遅刻した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

神剣のカミリ 神月 龍星 @hanadatali1838

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ