私の愛する死よ永遠に

@kaitubaki

序文

ここは何処かの高校。そこには生徒がいて先生がいて、学校があった。

闇を感じる。光の中で輝く闇。その名は死。近いようで遠く、遠いようで近い。人によっては光のような存在。

ここに十七の男子高校生がいる。名は健司。


健司「暗い」

目を開ける。

健司「もう夕方か。帰ろう」

彼はいつもこの教室で放課後まで過ごす。勉強しているわけではなく寝ているだけだが。

女子生徒の甲高い声「きゃあああああ」

健司「何だ!?」

慌てて声のした咆哮を見る。どうやら二号館の二階の廊下らしい。

健司「階段三つ、それに渡り廊下を二つ、めんどくさいな」

好奇心よりも怠さが勝ったらしく、諦めて帰路に着く。校舎を歩く。階段をゆっくり降りていく。一番近くにあった階段は真っ直ぐ降りると職員室前にたどり着く。

健司「あと二階、相変わらず長い」

桐「健司君じゃないか」

健司「桐、君はもう帰ったはずじゃ?帰りの挨拶したろバイバイって」

桐「相変わらず気怠そうな顔だね」

健司「お前が明るすぎるだけだ」

桐「ところで僕、死にたいのだけどどうかな?」

健司「勝手にしろ。ただ俺の前で死なれると後が面倒だ。猫の様に一人で死んでください」

桐「みてくれよこのナイフ、沢山研いだから人の首くらいなら豆腐みたく切れる」

健司「気持ち悪い」

桐「知ってる」

ナイフを首に宛がい、死ぬる。

健司「死んだ?」

目の前の不可解な光景に驚く。

男の先生「これは!こっちもなのか!」

健司「こちら?どういうことだ」

あり得ない光景に、視界が歪む。

健司「嘘だ」


暗転


「嘘じゃない」


明転


健司「ここは、何処だ?」

学校じゃないどこか別の場所。

健司「それに、君は」

男「僕は、人だ」

健司「は?」

男「僕は探究者、答えを追い求める人」

健司「何を言っているのか分からない。ここは何処なんだよ」

男「ここは僕の住む場所」

健司「そうか、これは夢だ。出来の悪い夢だ」

男「おっと、これが夢なら出来はいいはずだよ」

健司「は!?ふざけるな、俺は普通の高校生だ。こんなファンタジーの起こる世界には住んでない」

男「ああ、そうだ。住んでなどいない。ファンタジーの方からやって来た、の方が正しい」

健司「どういうことだ」

男「目覚めろ、」

健司「目覚めろ、だと?」

男「死を愛さねば、時は進まない」


暗転


健司「暗い」

目を開ける。

健司「もう夕方か。帰ろう」

女子生徒の甲高い声「きゃあああああ」

健司「何だ!?」

とっさに辺りを見回す。

健司「階段三つ、渡り廊下二つ、それに警察からの事情聴取、めんどくさい」

近くの階段を下りていく。ゆっくりと。

健司「、今日は別の階段を使うか」

とっさに引き返し、別の階段で下に降りる。

健司「君は、」

女子生徒「あ、健司君。珍しいね、こんな時間に会うなんて」

健司「そうだな。じゃ、俺は帰るから」

女子生徒「これは運命よ」

健司「悪いが俺はそんなもの信じていない」

女子生徒「我らが主よ、感謝します」

健司「頭でも打ったか?」

女子生徒「私が愛するものは、運命、そして、」

健司「それは、!そのナイフは、!」

手に持ったナイフで自らの首を切り裂く。

女子生徒「死だ」

健司「は?」


暗転


明転


男「お帰り」

健司「お前は誰だ!」

男「忘れたのかい?探究者だよ」

健司「知らない、お前なんて知らない」

男「やれやれ、記憶の引継ぎが出来ないとは、何故彼が選ばれたんだ?」

健司「どういう事だ!」

男「早く目覚めろ、其のうち気付くさ」

健司「は?」

男「汝、死を愛せ。永遠に」


暗転


健司「暗い」

桐の声『思い出せ』

目を開けても何もない、誰もいない、暗闇のよう

健司「今のは?」

女子生徒の甲高い声「きゃあああああ」

健司「今のは!?」

しかし、好奇心は気怠さで掻き消えた。

健司「は?まって、俺は、何か、忘れて」

桐の声『思い出せ』

健司「は?」


暗転


それは、いつかの記憶。


明転


健司「暇だなあ」

高校一年の夏。

桐「大変だ!海斗が、」

健司「何だ?」

桐「屋上の上で自殺しようとしている!」

健司「海斗が?」

桐「早く何とかしないと!」

健司「俺に何をしろと?」

桐「助けよう」

健司「俺に、何が、」


記憶を、辿れ。


健司「なんて?」

桐「は?」


知っているはずだ。


暗転


健司「ここは、教室」

窓から見える空に太陽はかけらもない。

健司「帰るか」

荷物を持って、帰路につく。一番近い階段を下りて、いつものように帰る。

健司「これは、!」

階段を下りる途中、ふと廊下を見ると、そこには血まみれの生徒がいた。

健司「お前、なんで死んで、」


暗転


明転


男「お帰り」

健司「俺はお前の事なんか知らない」

男「本当に?」

健司「でも、会った事がある気がする」

男「正解だ。次はもっと、死を知る」


暗転


それは、いつかの記憶。


海斗「ねえ、教えてよ君の生きる意味を」

健司「生きる意味?」

海斗「死ねば、全てが終わる。それはこの上ない極楽なんじゃないのか?」

健司「俺は、多分生きていて、嬉しいって感じたことは無い。むしろ毎日を自堕落に過ごして、多分今死んだって後悔しないと思う」

海斗「なら、死ぬべきなんだ」

健司「わかった。一緒に死のう」

屋上、鉄格子を乗り越えたらもう、彼らを遮るものはない。淵に立つ。

健司「さあ、死のう」

飛び降りるだけでいい。

海斗「ああ、素晴らしい」

けれど、健司一人は生き残った。健司の持つ鉄格子だけが壊れて、屋上側へ倒れた。その拍子に海斗だけが、真っ逆さまに落ちていった。

健司「なんで?」


暗転


健司「暗い」

瞼を開けると、教室の光が入り込んできた。

健司「帰るか」


記憶を。


健司「は、あああああああ!!!!!!」


なだれ込んでくる。記憶が、痛みが、歪が、壊れていく。なにもかもが壊れる。


健司「これは、記憶」


人の死ぬ顔を知っている。人が死ぬときを知っている。匂いを味を音を、すべてを。


健司「思いだした」

すぐさま、階段を下りていく。

桐「やあ、健司君じゃないか」

健司「死ぬつもりか」

桐「そうだ。死ぬ」

健司「やめておけ、あまり気持ちのいいものではない」

桐「君は死を知っているのかい?」

健司「ああ」

桐「なら、死ぬよ」

ナイフを取り出し、首を切り裂いた。

健司「またか、またやり直しか」


暗転


明転


暗転


先生「今日は学校休みだ。さあ帰った帰った」

健司「え?」

日が進んだ。

通行人「知ってる?ここの高校、生徒が一日に何人も自殺したらしいの」

通行人「やだわ、物騒ね」

健司「俺の、所為か」

瞬間、門に向かって走り抜ける。

先生「おい!」

校舎に入る。

健司「何故、戻らない。俺が死を知ったからか?」


声『愛することで、成就する』


健司「今のは?」

校舎の渡り廊下、そこには大きな窓がある。それを開けて外を見る。

健司「教えてくれ、俺は如何すればいい。どうすれば」

男の声『死を知れば、前に進める。それでいいじゃないか』

健司「駄目だ。俺は、お前を救う為に戻ったのだから」


「桐」


健司「桐は死んだんじゃない。殺された。そうだろ?」


暗転


桐「ご名答」


明転


健司「ここは、」

桐「何故分かった」

健司「記憶を取り戻した」

桐「流石だ、しかしもう遅い」

健司「遅くない。このループは引き継がれる、記憶と共に」

桐「成程、前任者は?」

健司「海斗だ。このループから逃れるには自らが死ぬ必要がある」

桐「では、」

健司「しかし、ここにループするものが二人いる」

桐「は?」

健司「あの日、俺は死ぬ運命だった。けれど死ななかった。ループは通常ならお前に引き継がれるはずだった。そういう呪いだった。しかし俺が死ななかったことにより、俺にもループが引き継がれた」

桐「馬鹿な!僕はあの時確かに、」

健司「お前のループした世界は少し未来だった。何故なら同じ時間に呪いを受けた者は存在しないから。そしてお前は未来で自ら命を絶った」

桐「そうさ、そして次の人間に引き継がれた」

健司「いいや、引き継いでなどいない。何故なら未来でお前が死のうとも俺の時間では死んでいないから」

桐「なら誰に」

健司「その歪がこの空間を生み出した」

桐「僕は、」

健司「お前は、いやお前だけじゃない、みんな殺された。この呪いに」

桐「この呪いは何なんだ、それに何故僕にだけ記憶が引き継がれていない、それに僕は死んだはずだ」

健司「死んでいない、記憶の中に生きている。つまり、俺の中では生きている」

桐「僕は、これからどうすればいい」

健司「呪いの原因を探れ、記憶のどこかにいるはずだ」

桐「どうやって」

健司「記憶を失くし、起点となった場所で生きろ。今この瞬間、それが出来るのはお前だけだ」

桐「僕が、」

健司「時は進むことを止めた。お前は永遠に死を抱き続ける。其れこそが呪いを滅する方法。海斗の考えた計画」

桐「遂行しろと」

健司「ああ、」


「開け、『記憶の扉』を」


ドアが開かれる。

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