11

  紅音が膝をつき、髪を耳にかけ、くわえると、彼は汚れていないほうの手で髪を梳いた。

「紅音さんにしてもらえるなんて、俺、もう頭がおかしくなりそうです」

「なればいいよ」

  ああ、彼は好きなんだ、私のことが。

「あ、紅音さん……」

「うん、気持ちいい?」

「そ、それ、いい」

「うん、いつでも出していいよ」

  彼は嗚咽するように呻き、紅音の口の中に吐き出した。ずっと嫌いだったのに、懐かしい味だと感じた。

「次はキミがしてくれる番でしょ?」

  彼の中指を取り、中に押し込んでいく。

「紅音さん……こんな……」

「ねー君が余裕ないの、見てて楽しいな」

「俺だって、余裕ない紅音さんが見たい」

「出来るかな?」

  彼は紅音の胸に吸い付く。思わず指を締め上げてしまう。

「洗面所じゃなくて、ベッドでしてよ」

「もうちょっと、焦ったそうな紅音さんが見たいかなって……」

  膝に力が入らなくなってくる。

「だ、だめ、立ってられないから」

「やばい、かわいい。写真に撮りたい」

「やだ、やめて」

「写真で毎日抜けそう。だめ?」

「それならうちに来て」

「付き合ってくれますか?」

  指の動きが止まる。体が勝手に動いてしまう。

「あー、うん、付き合うから」

「やった」

「ねえ、早くして」

「大丈夫、毎晩、紅音さんが壊れるぐらい抱くから」

「馬鹿言うな……というか、童貞みたいな言葉だね」

「若者の性欲、舐めないでください。あ、女の人がしたくなる年齢って、けっこう遅いんですっけ」

 後ろを向かされ、立ったまま押し込まれた。

「ちゃんとつけてるよね?」

「大丈夫ですよ」

  勢いよく攻められ、紅音は歯を食いしばって耐えた。

「紅音さんの顔も見たいんですけど……僕、これが好きで」

  紅音は壁に爪を立てた。

「つけててもこんなに……」

「馬鹿、外したらダメ。ねえ、ベッドでしてよ」

「こうしたら、紅音さんが壁に縋ってるのがかわいくて。でも、最後はベッドにします?」

「うん、右の寝室」

  いきなり抱きかかえられ、紅音は悲鳴をあげた。どこにそんな筋力があるんだろうか。

「ちょっと、」

「はい、これでオッケー」

  ねー君は嬉々としながら紅音の脚を開いた。

「やっぱり入れる瞬間の顔も見たいや」

 彼は、こういうことに慣れてるんだろうな。何を言えば女が喜ぶか、理解している。そう冷静に分析している自分がいる。

「好きです。何回でも言うから」

 そう言いながら、両手を握りながら、目をずっと見つめながら。そんなに私が好きか。困ったものだ。

「紅音さん、ずるいです。こんなの、俺、ダメになってしまう」

「私はずるくないよ?」

「かわいいって言ってるんです」

「どこが?」

「全部」

「いいよ、ダメになっちゃえ」

「言いましたね? もう紅音さんは俺のものですから。悠さんには絶対に渡しません」

「ああ……忘れるくらい大事にしてくれるならね。タバコは? やめる?」

「やめます」

「私より先に逝ったら許さないからね」

「はい」

「吸いたくなったら、代わりにこれをしよう」

「うわ……いいんですね? 職場でもですか?」

「おいおい」

  ゆっくりと優しくされて温まっていたのに、急にがっつくものだから、子宮が痺れた。

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