10

『来ました』

  ラインの連絡が来て、ドアを開けると、やや疲れ気味の顔のねー君が立っていた。

「おつかいご苦労! 今から飲める?」

「うーん……半分なら?」

  紅音は室内に招き入れると、グラスを取り出した。

「夜更かし飲みって、若い時しか出来ないよね」

「紅音さんの部屋だ……」

  ねー君が惚けたような顔で突っ立っているので、ソファに座るように促す。

「矢沢んちまで遠かったんじゃない? で、ねー君のことだから歩きで帰るつもりだったんでしょ?」

「ええ、まあ」

「夜はよくないよ。男の子でも」

「紅音さんは? この時間まで起きてたんですか?」

「ミナさんと飲んでたからね〜」

  グラスを差し出す。氷結にアイスを入れたものだ。ねー君は、一口飲んで、美味しいと目を輝かせた。

「でしょ」

「……あの。俺が会いたいって言ったからですか?」

「いや? たまたま起きてたから」

  彼は決まり悪そうな様子で部屋を見回した。四人家族までなら余裕の空間だ。

「広い部屋ですね。何部屋あるんですか?」

「ここ以外に寝室は二つあるよ」

「ファミリー用ですよね……」

「そうだよ」

  紅音はふだん、結婚指輪をしない。なくしたくないから、ネックレスにしてブラウスの下に隠している。たぶん、ねー君が私に旦那がいたことを知ったのは、あの洒落た飲み屋に行った日だ。

 青年。キミに未亡人を愛する覚悟はある?

「私のこと好きなら、タバコはやめなきゃだよ」

  ねー君のまつ毛が揺れた。

「タバコは、私からあの人を奪ったからね」

「すみません。そういうこととは知りませんでした……」

「でもさ、匂いが懐かしいんだよね」

  髪をワシワシと撫でると、やはり微かにニコチンの匂いがする。

「条件反射なのかな」

  ねー君の腕が伸びてくる。床に押し倒される。

「シャワー浴びないと、だめ」

  汗の匂いは好きなほうだと思った。

「スーパーでちゃんと買ってきた?」

「そりゃ、買いますよ」

「でもシャワーしなきゃだめ」

「なんで、呼んでくれたんですか?」

「一人の夜は寂しいからね」

  首筋を唇で吸われる。久しぶりすぎて、体の反応が鈍い。

「あの、我慢できないんですが」

「だめだぞ、洗わないと飲んであげない」

  ねー君の顔が、さっと赤くなるのが分かった。

「いま……なんて」

「二回言わない。よく洗う。ゴー」

  恋する青年の表情か。かわいいな、と思う。それもなんと、自分のことを好きだという。

  髪を乾かしてやると彼は、はにかむように笑った。

「紅音さん」

「ん?」

「時々、胸が当たります」

「ほう」

「わざとですか?」

「いや、胸だけはあるからね、私」

  ねー君は振り向くと、紅音を壁に追い込んだ。

「まだ乾いてないよ。ほっとくと禿げるよ」

「すぐ乾きます」

  彼の手がふわふわと胸を掴んだ。

「やっぱ、すごい」

  嬉しそうに笑うので、紅音はおかしくなって笑った。が、指ではなく舌で転がされ、久しぶりの刺激に感覚が過敏になるのが分かった。

「う……」

「紅音さん。かわいい」

  彼の指が下に向かって伸びていく。

「俺のせいでドキドキしてるんですよね?」

 頷くと、指先が太ももの内側に入り込む。

「ねー君、私、舐められるの好きだなあ……後で私もしてあげるから」

  脚を少し開くと、彼は口元で笑い、跪いた。

「紅音さんは、こういうの、好きだと思いました」

  パンツを下ろされる。温かい息がかかり、ゆっくりと舌が這った。紅音はため息を漏らした。

「なんで?」

「下着が可愛いから」

「関係ある?」

「俺が今まで見た中で、一番可愛いです」

 再度、指先が触れる。

「ねー君……まだ早い」

「じゃあ、約束守ったから、してくれますか?」

「いいよ」

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