記録50 飛び入り参加OKです

「褒美が、何でもあり!?魔王の座でもいい!?」

「え、ウソ!どうしよう、何でもって言われたら迷っちゃう……!」

「ちょっとアンタ、何をワタワタしてるの!勝たなきゃ褒美はもらえないんだよ!」

一瞬にして闘技大会の会場は騒がしくなり、魔族たちは、驚き、慌て、叫ぶ者までいた。


「いや〜圧巻だね!みんなあたふたしてる!」

思わず笑ってしまうクローチェ。

「姫様、魔王代理様……その、いいのですか?」

すすっと側にフィクが来る。こんな混乱してる中、武闘大会を開始していいのか……?そんな風にフィクの目が語っていた。

魔王代理とクローチェは、ニッと笑う。

「むしろ最高じゃない?面白い勝負が見れそうだわ。それに……もし、魔王の座を狙うなら、いつまで慌てふためくようじゃ、魔王は務まらないわ」

魔王代理はそう言って、スッと片手を上げた。

ゴーン、ゴーン……と重低音の鐘の音が響き渡る。闘技大会開始の合図だ。


「闘技大会、開始よ!出場する選手は待機所に!」

魔王代理の言葉に、魔族たちはハッとなり、いそいそと出場者は待機所へ、観客は観客席へと移動する。


出場者が全員待機所に集まったのを確認できると、クローチェが試合場所の中心に立つ。

「では、第一回戦を始めまーす!それでは、出場者に登場してもらいます!」

クローチェがパチンと指を鳴らす。

待機所にいた何人かの魔族の腕に黒い腕輪が現れた。

「黒い腕輪をはめた選手、前へ〜!」


ぞろぞろと黒い腕輪をはめた魔族が試合場所に姿を現す。その数、20人。


「よしよし、ちゃんと全員いるね。それじゃあ、第一回戦の内容を発表します!」

20人の魔族は、ゴクリと唾を飲む。

「スライムを全部倒せ!スライムを全て倒し、腕にはまっている黒い腕輪を死守出来た者が勝者となりまーす!黒い腕輪がスライムに溶かされたり、戦闘不能になったらアウトです!それでは〜……試合開始ーーー!」

クローチェがそう言うと、上空に魔法陣が現れる。

ぼとぼとぼとっ!!

スライムが空から降ってくる!


「う、うわぁ!」

黒い腕輪を守り、降ってくるスライムから逃げ回る魔族。

「防壁!」

魔法で防壁を作り出し、身を守る魔族。

「燃やし尽くせ!灼炎!」

炎の魔法でスライムを焼き消す魔族。

自分なりの方法で魔族たちは、腕輪を守り、スライムを攻撃していく。

上空の魔法陣から落とされたスライムの数は100匹程度だ。

単体で襲いかかるスライムもいるが、複数のスライムが合体して襲ってくることもあった。

「クソッ!足が……!」

両足をスライムに絡め取られた魔族がいる。何とか引っ剥がそうとしていると、背後に気配が。

後ろを見れば……。

「!!こ、こっちに来るな!」

合体して大きな塊となったスライムが動けずにいる魔族に襲いかかる!

「うわああ!!」

腕輪がはまっている方の腕が飲み込まれ、黒い腕輪は、あっという間に溶けてしまった。


「吹っ飛べ!スライム!」

びゅぉおお!

風の魔法でスライムを吹き飛ばす魔族もいた。

「ぎゃあ!頭にスライムがへばりつく!」

「どこだ!吹っ飛ばしてきたヤツ!ぶん殴るぞ!」

スライム討伐どころか、魔族同士で戦い始めた者もいる。


「まぁ、面白いことになってるわねぇ」

魔王代理は満足そうな表情だ。

「この試合内容、考えたのは姫様ですよね」

側にいたフィクがそう聞けば、魔王代理は頷く。

「やはりそうでしたか。実に姫様らしいです」

フィクと魔王代理は顔を見合わせて笑った。


共闘して腕輪を守り、スライムを倒す者。ひたすら逃げ回る者。スライムを使役し、戦わせる者。

スライムは徐々に減り、ついに……。

ピーッ!

甲高い笛の音が響く。

「試合終了!」

残ったのは、5人の魔族だ。

「おめでとうございまーす!勝ち残れた5人の魔族は待機所へ、残念ながら負けた魔族は医務室へ行って体を休めてくださいねー!」

クローチェが拍手をすると、観客席にいた魔族たちも拍手をして勝ち残った5人の魔族を見送った。


「では、続いての試合の内容は〜『化け猫を探し出せ!』でーす!」

クローチェがパチンと指を鳴らすと、また一部の魔族の手の甲に肉球の模様が浮かび上がる。

20人の魔族が前に出る。

そして、出場者の前に魔法陣が現れ、数多の生き物が姿を現す。

「この中に一匹だけ化け猫がいます!それを当てた魔族が勝者となりますっ!」

クローチェの言葉にざわつく魔族たち。

「こんどの試合の勝者は一人だけ……!」

「誰が勝つんだろうな!」


「試合、開始ーーー!」

クローチェの合図で、20人の選手は魔法陣から現れた生き物たちに近づく。

「……お前だな!ウサギなのに、尻尾が猫みたいに長いぞ!」

「ざんねーん!アタシは化けキツネよ」

「アンタが化け猫ね!騎士団の彼を真似てるみたいだけど、彼はヤギの魔獣じゃなくて、ヒツジの魔獣よ!角のカタチが違うわ!」

「わわわ!角、間違えちゃった!けど、ボクは化け猫じゃないよー!化け狸!」

どうやら化け猫だけじゃなく、化けキツネや化け狸が紛れているようだ。

そんな時だ。

じーっと一匹のぶち柄の猫を見ている魔族がいる。

孔雀色の髪に、周りに目玉を模した球が浮遊している。

心が読める魔族、ココだ。

「アンタ、リナリアじゃな〜い」

ギクリとした猫は、ふわっとベールのようなものに包まれ、ベールが消えるとリナリアが現れた。頭には銀糸をあしらったベールを被っている。

「やだ〜……すぐにバレちゃった。まだ開始して数分じゃん」

リナリアは残念そうだ。

「ふふふー♪私と目が合った途端、リナリアの心の中、あわあわ〜ってしてて超面白かったぁ。それにしても、そのベールは何?」

「よくぞ聞いてくれました!私の自慢の妹、ルナーリアが作ってくれた『変身ベール』!これを被れば、なりたい姿になれちゃうの!」

ココは興味深そうにベールを見ていた。

「それにしても、ココも参加してたのね。知らなかった」

「飛び入り参加したのぉ。だってだって、この闘技大会の勝者のご褒美が何でもありだよ?参加するしかないよね〜」

「てか、ココ。私とこんなまったり喋ってていいの?」

「んー?大丈夫だよ。だって、今、聞こえたからねぇ」

ココはそう言ってスタスタと歩く。

ピタリと立ち止まるココの目の前には、小さな灰色のネズミがいる。

ネズミはココに気がつくと、ずりっと後退りした。

「逃げちゃダメだよぉ?化け猫さん♪ふふ、気が緩んだみたいだね?心の声、聞こえちゃった〜」

「にゃう……こんな早くにバレるとは」

ぽんっと音を立て、ネズミは化け猫の姿に戻った。

ピーッと甲高い笛の音が響く。

「勝者はココ!おめでとう〜!次の試合も頑張って!」

「ありがと、姫様。試合の内容、簡単にしてくれるともっと嬉しいなぁ?」

「それはできないよ〜。だって、簡単にしたら、つまらないでしょ?」

クローチェが笑ってそう言えば、ココも「それは確かに〜」と言ってニッと笑った。



試合は順調に進み、勝ち残った選手は、ついに半分となった。

半分にはなったが、飛び入り参加してくる魔族もいるので、100人も残っている。

「それでは、次の試合は3対3のバトルだよー!」

クローチェが、次の試合に出る選手の名前を呼ぼうとしたその時だ。

バンッと大扉が開かれ、3人の人物が入ってきた。

「その試合、私たちが出るわ!!」

勇者の仲間の一人、魔法使いミーチェ。

「みんな、楽しそうなことしてるな!」

格闘家のアガット。

「ラララ~♪素敵な音楽をぜひみんなに聴いてもらいたいな」

吟遊詩人のフォルティ。


「ゆ、勇者の仲間たちが!?」

「面白そうなことになったなぁ!対戦相手はどうなるんだ?」

観客はざわざわと勇者の仲間たちと、クローチェを見ていた。


クローチェはニッコリ笑う。

「オッケー!みんな〜勇者の仲間たちが、飛び入り参加してきたよー!ではでは~勇者の仲間たちと戦う3人の魔族を紹介しますよー!」

パチッとクローチェがウィンクすると、転移魔法陣が現れる。

そして、ぽんっと3人の魔族が姿を現した。

「鬼娘のリッカ!鍛冶屋のビス!鎌使いガイコツのクロルト!」


「あら、鍛冶屋のビスって……確かこの間、私達が捕まえた宮廷音楽家のラノに濡れ衣を着せられかけた魔族じゃない」

ミーチェの視線はビスを捉えていた。

「そういえばビスってやつ、魔王を陥れた犯人ではなかったけど、血気盛んなヤツで、戦うのが好きなのに、魔王がそういうイベントしないから不満に思ってたよな」

アガットがビスに関する情報を思い出していた。

「本当に戦うのが好きなんだねぇ。見てよ2人とも、ビスの目、ギラギラだよ」

フォルティはのんびりした口調でそう言った。


「ふーん、いい目じゃない。私の魔法でコテンパにしてやるわ!」

「よっしゃあ!行くぞ、ミーチェ!フォルティ!」

「支援は任せてくれ」

ミーチェたちも、やる気満々だ。


「両チーム、構えて〜!それでは、試合開始!」

クローチェの掛け声が響き渡った。

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魔王代理の娘の観察記録 天石蓮 @56komatuna

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