第13話 心底どうでも良いんだって!!
「苦労して探したのに昨日と同じ場所に居るとか拍子抜けも良いとこだみたいな顔してどうしたんすか、先生」
「……そんなことはない」
どうでも良いけれど、昨日頭突きをかましたのは顎であるはずなのに。どうしてこの教師は顎だけでなく鼻にまで手当をされているのだろうか。
小学校の高学年になった頃にはすでにお母さんと花見に行くこともなくなって、売りをするようになっても花が咲いている時期には近づかないこの公園に、仕事以外でやってきたのは思えばとても久しぶりだった。
「昨日ぶりっすねー」
錆びついたベンチの真ん中に偉そうに座り込んで空を見上げれば、目に入るのは緑が麗しい葉桜。やはりこっちのほうがカッコ良いと思う。
「説教っすか」
自分で言うのも何だが、遅刻はあっても休んだことのない私はとても優等生ではないだろうか。優等生は遅刻も売りもしないって? 知ってる知ってる。
「そのつもりはない」
「ほほう」
砂利の音に顔を下げれば、私を見下ろす教師と目が合った。座りたいのかな、だけどもお生憎様で横にどいてあげるなんてしてあげない。
「ズル休みをした生徒を怒らないのはそれはそれでどうかと思うんすけど」
「かもしれないな」
「ははッ、ンで?」
夢だったんだ。
母が何度も何度も話してくれた高校に通うことが。
通って。
高校生活を送って。
こんな程度かと唾を吐くのが。
夢だったんだ。
経験していなければ糞だと言っても負け犬の遠吠え扱いになるだろうし。あの夢見がちお母さんに届くこともない。
「良いっすよ」
まあ、死んでいるんだから届くもくそもないんだけど。
そうだ。そうだとも。いつまで私はくだらない意地にこだわってしまっているのだろう。もう、すっぱり諦めてしまえば良いじゃないか。
「退学で良いっすよ」
そうすれば無駄に売りを続ける必要もない。どこか適当なところに就職して適当に稼いで適当に生きて適当に死ねば良い。
誰にも迷惑をかけることなく。
死んでしまった時点で逃げられたんだ。
もうどうせ何も出来ないし、何も変わらないし、何かするでもないし。
なんというか……。
「提案があるんだが」
「うん?」
え? 何? 提案?
何言ってんだ、この爺。人がちょいとアンニョイな感じで運命を諦めて大人になろうとしているところに、うん?
「つまり、黙っててやるから抱かせろと?」
「は?」
違うらしい。
「春川くんが売春を行わずに高校生活を続ける提案の話だ」
「……」
「色々考えてみたんだが」
「ちょっと待った!!」
「何かね」
いや。
何かね、はこっちの台詞だっての。
「いや、いやいやいやッ! いやいやッ!」
どうして不思議そうな顔をする!
どうしてそっちが不思議そうな顔をする!?
「ないって!」
「だから、何がかね」
「別に高校続けなくても良いんだって!」
夢見がちなお母さんが決して嫌いだというわけではなかった。
好きでも……、いまはないけれど。でも、別に嫌いじゃなかった。ただ嫌がらせがしたかったんだ。
目をキラキラさせて高校生活を話し続けたお母さんに。お母さんの墓に、あなたが楽しんだ高校生活は所詮こんな程度だって吐き捨てるだけだったんだ。
綺麗なところしか見ていない。見ようともしない。
「もう良いし! 別に高校とか今時どうでも良いし!」
ただの意地だ。
それもくだらない意地だ。ミー子に話そうものなら一生指差されて笑われる自信だってある。
「そうはいかないだろう」
それは何をこの教師は言うのか。
「なんでよ!?」
この春から担任になっただけの赤の他人が。
それも、基本的に生徒に興味のないはずの無気力教師が! 周りに好かれている理由も分からないぐらいの奴が!
「君が、」
いまさら!
「助けてと言ったからだ」
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